(社説)広がる飢餓 身近な食品を考えよう

社説

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 地球に暮らす9人に1人に当たる8億2千万人以上が飢えに苦しむ。5歳未満の子ども1億5千万人近くが栄養不足による発育阻害に直面している。

 国連がこの夏に発表した報告書の数字だ。一時は新興国での改善などで飢餓人口は減り続けてきた。ところが2015年に増加に転じ、その後改善の兆しを見せていない。

 気候変動で頻度と規模を増す自然災害や、中東やアフリカなどで増えた地域紛争、そして08年の世界的な金融危機のあとも続く経済の低迷が原因だ、と報告書は分析している。

 日本とは縁のない、遠い国の問題だろうか。

 世界ではすべての人々が十分に食べられるだけの食料は生産されているといわれている。なのに食べ物が不足する人が数多くいるのは、食料が偏って分配されたうえ無駄にされ、必要な人の口に届かないからだ。

 国連食糧農業機関によると、食料の3分の1にあたる13億トンが毎年捨てられている。このうち4分の1が有効に使われれば、飢餓人口のすべてが救われるとの試算もある。

 日本でも年に643万トンが、まだ食べられるのに捨てられる「食品ロス」となっている。飢餓に苦しむ人々に向けた国連の食料援助の1・7倍にあたる。

 食料の約6割を海外から輸入する日本が、食べ物を無駄にし続けるのは理不尽すぎる。国と自治体、事業者、消費者に取り組みを求める「食品ロス削減推進法」が今月、施行された。

 努力目標で罰則はないが、小売業界は消費期限よりかなり前で商品を店頭から撤去する商習慣を見直すべきだ。消費者も一人ひとりが意識を変え、できることから実践していきたい。

 足元の日本にも貧困問題がある。貧困世帯に暮らす17歳未満の人口は280万人。7人に1人に上る。成長に必要な栄養が得られない子どもたちがいる。品質に問題がないのに廃棄される食品を集め、貧困世帯に提供する「フードバンク」の活動も知られてきた。

 10月16日が「世界食料デー」であることから、今月は各地で様々なイベントがある。会場に足を運べば、何ができるか手がかりがつかめるだろう。

 「飢餓をゼロに」。これは日本を含む国際社会が2030年までに実現を目指す「持続可能な開発目標」(SDGs)の柱だ。その実現が危ぶまれているのは憂慮すべき事態である。

 日本は「SDGsの力強い担い手」を自任する。これまでもアジアやアフリカなどでコメづくりを支援してきた。今後ともその取り組みを強め、飢餓問題の解決に貢献していきたい。

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