(パブリックエディターから)外国人労働者と多民社会 「多」には「自分」も含まれる 小島慶子

 10月から日本で暮らす外国人に焦点を当てた「多民社会」シリーズが掲載され、読者から多くの意見が寄せられています。「そもそもなぜ、移民を問題視するのか」(60代・男性)、「外国人労働者が増えることで日本が助かる面もあるのかもしれないが、正直に言うと、私は不安の方が大きい」(30代・女性)など、反応はさまざまです。

 外国人労働者を巡っては、人権に関わる深刻な事態も起きています。外国人を単なる労働力としてではなく、隣人として捉える視点が重要です。この問題をどのような切り口で伝えるのか、企画の中心メンバーの一人である真鍋弘樹編集委員に聞きました。

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 ――なぜ外国人をテーマに?

 真鍋「日本の大きな課題である人口減少を考える上でも、外国人労働者の受け入れは重要なテーマ。これまでの米国や欧州での取材を通じて、移民問題の難しさを実感しました。地域共同体に溶け込めないと移民が孤立し、治安や社会保障のコスト面で社会の負担になります。日本もこのままでは同じ轍(てつ)を踏みかねない」

 6月に政府が「骨太の方針」で外国人労働者の受け入れ拡大を示したのを受け、社内横断的な取材班を立ち上げたと言います。

 12月2日付朝刊では、妊娠した技能実習生が中絶か帰国を迫られたことを報じ、読者からは「外国人労働者を何だと思っているのか。記事を読んで切なくなった」(60代・女性)など、怒りの声が数多く寄せられました。同時に「(非人間的な扱いは)日本人に対しても行われてきた。実習生の問題を足がかりに、日本の労働環境や労働者の権利など、より大きな問題に肉薄してもらいたい」(20代・男性)、「外国人受け入れの前に、障害者や女性など、あらゆる差別をなくした労働法制や働き方を確立することが重要」(70代・男性)という指摘も。ほかにも、自身が派遣切りにあったり、不当に働かされたりした経験から、この問題に共感を示す意見がありました。

 ――外国人の置かれた現状に自らを重ねる人もいます。日本の労働環境自体を問う必要があるのでは。

 真鍋「日本はかつて、景気悪化の際に若者を非正規雇用で安く使い倒しました。ロストジェネレーションと言われる彼らは不安定な立場のまま40代になり、親の年金で暮らしている人も。今度は外国人で同じことをするのかという意見は、取材班でも出ています」

 外国人を巡る問題には、その社会が弱者や少数者とどう向き合うのかが顕著に表れます。実習生の置かれている環境を報じるだけでなく、この国で働くことを根本的に問う掘り下げがあれば、外国人労働者問題は自分の暮らしと地続きだと感じる人が増えるのではないかと思います。

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 そんな「隣人」としての外国人については「ここ数年、町中で働いていたり、近所に住んでいたりするのをよく見かけるようになった。しかし、私は、透明人間のように彼らを見て見ぬふりをしていた」(30代・女性)など、自分の暮らしに何が起きるのか想像がつかないという意見もありました。

 真鍋さんは「記者有論」(11月8日付朝刊)で、「やさしい日本語」を使おうと提案しています。お互いに通じる言葉がなければ、「定住外国人たちが見えない存在になり、コントロールできずにリスクが高まる」という一橋大学の庵(いおり)功雄教授の言葉を紹介。新たな隣人が安心して暮らせる環境は、結局は社会全体の安心につながると言います。

 ――なぜ言葉に着目したのですか。

 真鍋「赴任先のニューヨークで数年間生活し、海外で外国人として暮らす意味を考えました。日本の外国人労働者も将来、家族を呼び寄せるでしょう。『いずれ帰る人だから日本語教育の支援はしない』という姿勢では、彼らは日本で自分の可能性が発揮できず、孤立し、社会に依存する存在になってしまいます」

 多様化が進む社会では、話が通じない前提で「傾聴する」ことが重要です。伝える言葉も、より間口の広いものにする必要があるでしょう。

 私は現在、家族と豪州で暮らしています。豪州では私たち一家は、「受け入れられる側」です。もし今、自分が豪州で働くなら、高度な英語力が必要な仕事には就けない。そう思った時、日本にいる外国人労働者の人たちを身近に感じました。

 読者から好評だった記事に、外国人との共生に取り組む鈴木康友・浜松市長と、両親がメキシコからの移民であるヒスパニック系米国人女性、ジャネット・ムルギアさんの「耕論 多民社会 ニッポン」(10月30日付朝刊)があります。ムルギアさんの「国民を形作っているのは、人種なのでしょうか」という問いかけに、「大いに自省した」(70代・男性)との声が寄せられました。

 多民社会の「多」は「他」ではありません。「多」には自分も含まれます。我がこととして社会の変容を考えていくことが大切です。今後もそうした視点の記事を期待します。

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 こじま・けいこ エッセイスト、東京大学大学院情報学環客員研究員。1972年生まれ。著書に「解縛(げばく)」、小説「幸せな結婚」など…

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