なぜ、ベトナムは米国に勝てたのか 識者が振り返る半世紀前の戦争

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ハノイ=牧野愛博

 ベトナム戦争が終結してから、4月30日で50年を迎えます。ベトナム社会科学院(VASS)のダン・スアン・タイン副院長(国際政治学)はベトナムが勝利した背景には「正義と団結、国際情勢の好機を逃さない決断があった」と指摘します。トランプ米政権が誕生し、世界の秩序が揺れるなか、ベトナムも新たな対応を迫られているとも語ります。

 ――なぜ、ベトナムは米国との戦争に勝利できたのでしょうか。

 私も7歳だった1972年に、ハノイで12日間の米軍による空爆を体験しましたが、不思議と怖くはありませんでした。周囲の人々も楽観的でした。

 米軍が圧倒的な兵器を保有しながら敗北したのは、戦争の意義がわからなかったからだと思います。ベトナムにとっては独立のための正義の戦争でした。ホー・チ・ミン国家主席も「独立と自由よりも尊いものはない」と語りました。だから、世界から支援を受けました。ベトナムの全国民も正義の戦争を応援していました。

 国際情勢を分析して好機を逃さない決断力と指導力も大切だと思います。米国はベトナムに勝てないかもしれないと考え始めたころ、(71年のキッシンジャー米大統領補佐官の秘密訪中などを通じ)中国との協力を始めました。ベトナムにとっては好機でした。(73年1月のパリ協定で)米国を追い出すことに成功しました。

 ――ベトナムは戦後、米中ロなど大国とどのように付き合ってきたのでしょうか。

 ベトナム戦争終結後の50年間、国際情勢は大きく変わっています。情勢をよく把握して、最も適切な外交を展開するのがベトナムの強みです。超大国は世界秩序を握り、ベトナムやアジアにも大きな影響力を持っています。超大国の関係を考え、上手に対応する必要があります。

 ベトナム戦争後、ベトナムは他国とは連携しない自主独立の方針を掲げました。米中ロ3カ国に均等な利益をもたらすようにし、バランスを取ってきました。ベトナム国防省は2019年、「ベトナムに軍事拠点を置くことを認めない」「武力による解決を許さない」「(敵対する勢力の)どちら側にもつかない」「軍事同盟に参加しない」という方針を明らかにしました。大国に対し、利益を均等に与えることがベトナム外交の特徴です。

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 米国とベトナムは友人になり…

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この記事を書いた人
牧野愛博
専門記者|外交担当
専門・関心分野
外交、安全保障、朝鮮半島