明治から続く書店、無人化で24時間営業に 地方書店の「伸びしろ」

岩田誠司

 福岡県飯塚市の小さな書店が、定休日や夜間の無人営業を始めた。スマホやタブレットがあれば24時間いつでも入店し本を手にとって選び、購入できる、九州では先進的な試みだ。人手不足や厳しい経営状況の中で打った新たな一手は、これまでにない客の動きも生んでいる。

 午後8時過ぎ。暗く静まりかえった商店街の一角にある元野木書店にはあかりがともり、辺りを照らしていた。ただ、店内には誰もいない。

 初めて訪れたという男性(57)が、入り口の案内にそってタブレットでLINEを起動。友達追加機能でQRコードを読み込むと、自動ドアが開いた。無人の店内で雑誌や本のページを繰り、約30分後、鉄道の本をセルフレジで購入し店を出た。

 男性は「無人の店内は本屋を独り占めしているようで不思議な感覚。ゆっくり過ごせて、普段は手に取らないような本にも目が向きました。本を手にとって選べる実店舗の良さをいつでも楽しめてうれしい」と話した。

 元野木書店は2月末までは午前10時~午後5時半の営業で、日曜は定休だった。社長の元野木正比古さん(42)は、営業時間外に店を訪れた人が、がっかりしたように帰って行く姿をたびたび目にして気になっていたという。だが、営業時間を延ばすために人を雇う余裕はなかった。

 店舗の無人化を可能にするNebraska(東京都千代田区)のサービスを知ったのは一昨年。自動ドア開閉や、セルフレジでのキャッシュレス決済だけでなく、出版取次大手と連係して書籍の販売記録管理までパッケージで提供される。システム導入の初期費用と月々の利用料を、24時間営業で見込む収益と比較し、導入を決めた。九州では新たな試みだ。

 元野木さんは9年前、東京から帰郷し父親から書店経営を引き継いだ。市内では書店が相次いで閉店しており、明治期から地元で親しまれてきた家業も赤字経営が続き借金を抱えていた。経営再建のため、販路を整え直すと同時に、新たな試みも進めてきた。

 物置になっていた店舗の2階を整理し、カードゲームができるコミュニティースペースとして提供。自身もプレーヤーとしてゲームを学び、古物商の免許を取得してカードの売買もできるようにした。今では大会を開くと数十人が集まる。

 新たな一手となる24時間営業では、深夜にコミック本を数巻まとめて買う人がいたり、早朝にビジネス書や参考書が売れたりと、これまでにない動きがあった。導入したばかりでまだ採算ラインには届いていないが、「伸びしろはある」とみる。

 授業で学んだ知識を深めたくなった時や、飲み会の帰り道に子どもの顔が浮かんだ時。本屋が開いていたら立ち寄りたくなる場面はまだまだあるはずだ。「思い立ったときにすぐ、本を手にとって選べるのは実店舗の強み。何もしないとしぼんでしまう時代。攻める本屋をしていきたい」…

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この記事を書いた人
岩田誠司
西部報道センター|筑豊地区担当
専門・関心分野
南米、外国人労働者、農業、食、災害、環境、平和、教育