教員の性暴力、描いた漫画出版 作者が指摘する「時限爆弾」と特殊性

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編集委員・山下知子

 後を絶たない教員による子どもへの性暴力を描いた漫画「言えないことをしたのは誰?」が今夏、単行本として出版された。ネット連載時から反響が大きく、専門家も評価する。作者のさいきまこさん(63)は「被害を受けた時だけでなく、その後も深刻な状態が続く。実態を知ってほしい」と話す。

 文部科学省の公立学校人事行政状況調査によると、性犯罪・性暴力により懲戒処分などを受けた教員は、2022年度は242人(教員全体の0・03%)。うち119人は児童生徒らへの行為が理由で、前年度より25人多かった。教員全体に占める被処分者数の割合はわずかだが、子どもに接する職業従事者による性暴力は社会問題化しており、6月には「こども性暴力防止法」が国会で可決、成立した。

 漫画は19~21年、講談社のウェブサイトで連載され、今年7月に現代書館から上下巻で出版された。

 作者のさいきさんは、生活保護などの社会問題をテーマにした漫画を多く手がけてきた。その中で、女性の貧困に学校で受けた性暴力が影響しているケースもあると知り、作品にしようと考えたという。腰を据えて取り組もうと、1年以上かけ、養護教員や被害者、医療従事者、心理職らに取材を重ねた。学校組織の特徴を知るため、教員のサークルへも足を運んだ。

生徒によって異なる「グルーミング」の手口

 作品の主人公は、中学校養護教員。保健室で受けた1本の電話から物語は始まる。電話の主は中学時代に男性教員から性暴力を受けていた。その教員が勤務校にいると知った主人公が、周囲から孤立しながらも、同僚の協力を得て教員を特定していく。その過程や、生徒が被害に遭う経緯、その後の長期間にわたる影響を丁寧に描く。

 作品では、4人の女子生徒が登場する。あらゆる人が被害に遭う可能性や、性的な目的で子どもを手なずける「グルーミング」の行為が相手によって巧妙に変わることも伝えている。例えば、自信のない生徒には「全部先生に任せておけ」と言ったり、プライドの高い生徒には「特別」だと告げたりし、2人でいることに慣れさせ、徐々に距離を縮めていく。いずれも取材で実際に聞いた話をベースにした。

 被害者が「被害」だと気づくまで数十年かかることもある点も描いた。作中では「時限爆弾」と表現。「小中学生だと『被害に遭った』という認識が持てないことがある。急に感情が爆発したり、何日も動けなくなったりして通常の生活が送れず、初めて被害に気づくこともある」とさいきさんは話す。

■性暴力が起こる「場」を疑っ…

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この記事を書いた人
山下知子
編集委員|人権、ジェンダーなど担当
専門・関心分野
教育、ジェンダー、セクシュアリティ、歴史
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    富永京子
    (立命館大学准教授=社会運動論)
    2024年10月29日16時3分 投稿
    【視点】

    被害者側でなく、加害者側の心理描写までもが精緻な漫画であると思いました。加害者である男性教師は学校でも「良い教師」であるのみならず、家庭内でも被害者と同世代の娘をもつ「良い親」で、加害、支配してやろうという気持ちよりも、むしろ自分の目の前に

    …続きを読む