小熊英二さん寄稿 有権者の想像力と意志が決める「よき統治」

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 選挙が近い。現状には不満だが中身のない「新」「反」「改」では物足りない。ここで根本的に、日本の課題を考えてみよう。

 よい統治とは何か。それは当該社会の構成員が幸福を追求する条件を整えることだ。

 では幸福とは何か。古代ギリシャ哲学では、人間の幸福は「善くあること」だと考えられていた。各自に役割があり、人として認められ、健康に日々の仕事をしている状態だ。現代日本語なら「みんなに居場所がある」「誰もが一人前と認められる」「各人の尊厳が保たれている」にあたるだろう。

 こうした幸福は英語では「ウェルビーイング」と訳される。「善く(well)ある(being)」という意味だ。それは「楽しい」「おいしい」などの瞬間的な喜びを指す「ハッピネス」と区別される。

 よき統治(グッドガバナンス)とは構成員がこうした意味での幸福を追求する条件を整えることである。企業組織なら「よき統治」は、構成員がそれぞれ適切な役割を果たせるように組織を運営することだ。国の場合はさまざまな政策、たとえば雇用や教育機会の確保、個々人が尊厳を維持するに足る生活保障、経済活動や言論の自由、差別や独占を禁ずるルール設定などが具体的方法になる。

 では現代日本で「よき統治」を実現するために解決すべき課題は何か。私見を述べてみたい。

 欧米では失業問題の解決を…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年10月12日18時6分 投稿
    【視点】

    「想像力と知恵をめぐらせ、有権者が未来への自信を持つことが求められている」と。 長期的な経済の低迷、環境や社会保障の問題など、日本は長く、将来に対して悲観的にならざるを得ない状況にある。リスク社会とか、不確実性の時代などと言われ続けている

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    千正康裕
    (株式会社千正組代表・元厚労省官僚)
    2024年10月14日13時4分 投稿
    【視点】

    雇用をウェルビーイングととらえる視点は非常に面白いし共感する。自分自身も国家公務員から、自営業(会社設立)を経て、人を採用して雇用する立場を経験した結果、この考え方にとても共感するのだ。 もちろん、みんな家族を含めた生活のために働いている

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