iPS再生医療、初移植から10年 近づく「実用化」と残された関門
失われた臓器や組織の機能を取り戻す「再生医療」への期待がかかるiPS細胞。ちょうど10年前、日本の理化学研究所(理研)が主導する臨床研究で、iPS細胞を使った治療法が初めて患者に試された。その後、脳や脊髄(せきずい)、心臓など、さまざまな病気への応用が模索され「実用化」が近づく。一方で、課題も残されている。(野口憲太、後藤一也)
最初の患者は「加齢黄斑変性」という失明のおそれのある病気の70代女性だった。網膜の下にある網膜色素上皮の細胞シートがiPS細胞からつくられ、2014年9月、女性の目に移植された。
初の移植手術後の記者会見で、京都大の山中伸弥教授は、「iPS細胞ができて7年という非常に短い期間で、臨床研究という非常に大きな一歩を踏み出した」と語った。
山中さんがヒトのiPS細胞の作製を報告したのは07年。12年にはノーベル生理学・医学賞を受賞した。
文部科学省は13年から、iPS細胞の応用にむけた研究などに「10年で1100億円」の支援を開始。厚生労働省や経済産業省も支援した。
iPS細胞には、あらゆる細胞に変化する能力がある。病気などで失われた臓器や組織の細胞をつくり、移植することで患者を治す「再生医療」への応用は、当初から期待されてきた。
初移植から10年 広がる治験
一方、大きなハードルの一つは安全性だった。iPS細胞には、ほぼ無限に増える特徴もある。移植した細胞が増え続けて腫瘍(しゅよう)化するようであれば、治療法としては使えない。
14年の初の手術は、安全性…