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安倍晋三氏と旧統一教会会長、自民党本部で選挙支援確認か 写真入手

編集委員・沢伸也 高島曜介
【動画】朝日新聞が入手した自民党本部の総裁応接室の写真 そこに写っていたのは

 安倍晋三首相(当時)が2013年の参議院選挙直前、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の会長らと自民党本部の総裁応接室で面談していたとみられることが複数の関係者への取材でわかった。自民党の萩生田光一・元経済産業相や岸信夫・元防衛相、教団の友好団体トップらが同席。朝日新聞は面談時とされる写真を入手した。

 面談は参院選公示4日前の13年6月30日だったといい、複数の関係者は取材に「教団側による自民党候補者の選挙支援を確認する場だった」と証言した。

 関係者によると、安倍氏が面談したのは、当時の教団会長の徳野英治氏や、教団関連団体「全国祝福家庭総連合会」総会長でその後に教団世界会長に就いた宋龍天(ソンヨンチョン)氏、教団友好団体で保守系政治団体「国際勝共連合」会長の太田洪量(ひろかず)氏。勝共連合の幹部2人も同席した。自民党側は総裁の安倍氏のほか、党総裁特別補佐だった萩生田氏と、安倍氏実弟の岸氏が出席した。

 入手した写真は複数あり、安倍氏が徳野氏らと並んで立つ姿や、安倍氏が着席して徳野氏らと話す場面だった。こうした写真は例がない。

 13年6月30日の首相動静欄には、党本部での面会記録として「(午後)1時9分、自民党の萩生田光一、岸信夫両衆院議員」とある。安倍氏の首相在任期間の首相動静で、萩生田、岸の両氏が党本部で安倍氏と面会した記録はこの日だけだった。

 複数の関係者は取材に、「4日後に公示を控えた参院選で、自民党比例区候補の北村経夫・現参院議員を教団側が全国組織を生かして支援することを確認する場だった」と話している。参院選は13年7月21日に投開票され、元産経新聞政治部長の北村氏が初当選した。北村氏は22年に実施された自民党の点検で、教団側からボランティアの選挙支援を受けたと答えている。

 自民党は12年12月の衆院選に大勝し、第2次安倍政権がスタート。13年7月の参院選で勝利して「ねじれ」を解消し、長期政権を築いた。

 22年7月の安倍氏銃撃事件をきっかけに、教団の高額献金問題と共に、自民党議員ら政治家と教団との関係が問われるようになった。自民党の茂木敏充幹事長は22年8月、「党として関係部門に確認するよう指示し、これまで一切の関係を持っていないことを確認した」などと自民党としての組織的関係性を否定。教団側との接点については、党による調査ではなく、議員の自己点検に委ねられた。

 安倍氏は点検の対象外とされた。岸田文雄首相は国会で「お亡くなりになった今、確認するには限界がある」と調査自体を拒んできた。(編集委員・沢伸也、高島曜介)

自民党「党内事務手続きは公表していない」

 この面談や、自民党と教団の関係について尋ねたところ、自民党幹事長室は「党所属国会議員に対する点検指示の経緯および結果については公表しているとおりです。党内の事務手続きなどについては公表していません」と文書で回答した。

旧統一教会「当時の状況は回答できかねる」

 旧統一教会に当時の面談の内容や経緯について尋ねたところ、徳野氏と太田氏は退職し、宋氏は現在は韓国本部に所属するとして、「当時の状況については回答できかねる」などと文書で回答した。国際勝共連合にも質問状を送ったが、回答はなかった。

【視点】「党と教団の組織的関係ない」に疑義深まる

 首相である自民党総裁が国政選挙直前、党本部の総裁応接室で側近と共に旧統一教会トップらと会い、教団による選挙応援について確認していた――。取材では2013年時点のこうした構図が浮かぶ。自民党は「党として教団との組織的な関係はない」と繰り返してきたが、疑義は深まる形になる。

 党総裁を長く務めた安倍氏は、21年に教団友好団体のイベントにメッセージを送るなど、教団との深い関係が指摘された。岸田首相は国会で、「安倍氏の予定など記録があるはず」と追及されたが、調査を拒んだ。だが、今回の写真の現場は総裁応接室だ。10年ほど前とはいえ、安倍氏のスケジュールや党の記録を確認すれば判明したのではないだろうか。

 教団との関係についての自民党議員個人の自主点検では、漏れが続出した。教団への解散命令請求の責任者である盛山正仁・文部科学相は、教団友好団体と事実上の政策協定を結び選挙支援を受けていたことが判明。昨年末には、岸田首相本人も政調会長時代、元米下院議長と党本部で面談した際に教団友好団体トップらが同席していたことが発覚した。

 岸田氏は退任表明会見で自ら教団問題に触れ、「国民の政治不信を招く事態が生じた」と述べた。自民党総裁選の候補者は「国民の信頼を取り戻す」と声をそろえる。過去に目を閉ざすことなく、党と教団の関係を検証することこそが、信頼を取り戻す一歩だ。(沢伸也)

【詳報】安倍晋三首相と旧統一教会トップらとの面談写真はこちら

写った8人はいったい誰で、どんな目的で撮られたのか、入手した写真の細部から検証しました。

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この記事を書いた人
沢伸也
編集委員|調査報道担当
専門・関心分野
埋もれている社会問題
高島曜介
東京社会部|調査報道担当
専門・関心分野
事件、外交、安全保障
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    上西充子
    (法政大学教授)
    2024年9月17日11時13分 投稿
    【提案】

     報道各社には選挙における自民党と旧統一教会との関係を総裁選の新たな論点として取り上げることを求めます。この記事にあるように、岸田首相は「お亡くなりになった今、確認するには限界がある」として、安倍氏と教団との調査自体を拒んできました。また、総裁選の候補者の一人である茂木氏は幹事長として、自民党としての組織的関係性を否定してきました。  しかしながら安倍氏が首相の立場にある2013年の参院選直前に旧統一教会の会長らと総裁応接室で面談していた事実が明らかになった以上、次の総裁になろうとしている各候補者は、この問題とどう向き合うのかを総裁選の中で示さなければならないでしょう。  このタイミングで朝日新聞がこの問題を大きく、詳しく取り上げたことを評価します。きっと自民党側からは嫌がられ、今後の取材もしにくくなるでしょう。けれども、総裁選の後には衆院選が控えていると言われている中で、今、報じ、総裁選の立候補者に見解を求めることは、有権者である読者に重要な判断材料を与えることになります。

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    西田亮介
    (社会学者・日本大学危機管理学部教授)
    2024年9月17日6時29分 投稿
    【視点】

    丹念で興味深い調査報道だ。自民党と旧統一教会の「組織的関係」なのか、それとも派閥単位での関係なのか、政治家らの個人的関係なのかを論証できるなら、これまでの自民党の公式見解を否定することにつながるだろう。続報の有無が気になるところ。

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