関東大震災の朝鮮人虐殺、否定論やまず 公的記録、相次ぐ「発掘」

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二階堂友紀 田渕紫織

 1923年の関東大震災では「朝鮮人が略奪や放火をした」といった流言飛語が広まり、朝鮮人らが殺害される事件が多発した。9月1日で大震災から101年。史実を否定するような言動がやまない中、粘り強く記録をたどる人たちもいる。

小池知事と林官房長官の説明は

 東京都の小池百合子知事は、震災時に虐殺された人を含む朝鮮人犠牲者の追悼式典に、今年も追悼文を送らない。2017年から8年連続だ。

 小池氏は8月30日の記者会見で、不送付の理由について、式典と同じ9月1日にある震災の犠牲者を悼む大法要で「全ての方々へ哀悼の意を表している」と従来の説明を繰り返した。これまで虐殺の認識を問われると「何が事実かは歴史家がひもとく」などと語ってきたが、この日も「様々な研究が行われていることは承知している」と述べるにとどめた。

 「政府として調査した限り、政府内において事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」。昨夏には松野博一官房長官(当時)のそんな発言が問題になった。林芳正官房長官は30日の会見で「認識に変わりはない」と述べ、「災害発生時に、国籍を問わず、全ての被災者の安全安心の確保に努めることは、政府として極めて重要だ」と付け加えた。

司法省などの記録を根拠に

 政府の中央防災会議が09年にまとめた報告書は、「官憲、被災者や周辺住民による殺傷行為が多数発生した。虐殺という表現が妥当する例が多かった」「殺傷の対象となったのは、朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人も少なからず被害にあった」と記す。233人の朝鮮人が殺され、367人が起訴された事件の詳細を記した司法省の当時の記録などを根拠資料としている。

 だが、政府は「報告書は有識者が執筆したもので、その記述の逐一について政府としてお答えすることは困難」との立場だ。15年2月に「調査した限りでは、政府内に事実関係を把握することができる記録が見当たらない」とする答弁書を閣議決定している。

 野党議員らは昨秋の臨時国会で様々な記録を示しながら、政府の認識を相次いでただした。閣僚らは「政府内に事実関係を把握できる記録が見当たらない」という従来の立場を維持しつつ、虐殺に関する文書が「独立行政法人国立公文書館」や「防衛研究所戦史研究センター史料室」などにあることを認めた。

 「政府は10年ほど同様の答弁を続けてきたが、この1年でその矛盾が露呈した。史実を認めないような動きが相次いだことで、皮肉なことに、一般にはあまり知られていなかった朝鮮人虐殺に注目が集まった面もある」。虐殺否定論を検証するノンフィクションライターの加藤直樹さんは言う。

昨年明らかになった二つの公的資料

 新たな資料も相次いで「発掘」された。

 「(朝鮮人が)夜に入ると共…

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この記事を書いた人
二階堂友紀
東京社会部
専門・関心分野
人権 LGBTQ 政治と社会
田渕紫織
東京社会部
専門・関心分野
メディア、子ども、災害