ボクシング女子、性と出場資格めぐる議論 「公平性」模索の歴史
パリ五輪のボクシング女子で、選手の性と出場資格を巡る議論が起きている。昨年の世界選手権で性に関する検査によって「失格」となった2人の選手が、今大会への出場を認められたからだ。SNS上では、トランスジェンダーの女性と決めつけ、「公平性」を疑問視するなど、選手への誹謗(ひぼう)中傷や差別的な投稿も相次ぐ。
こうした状況を、私たちはどう理解したらいいのか。スポーツとジェンダーに詳しい中京大の來田享子(らいたきょうこ)教授(スポーツ史)に聞いた。
――66キロ級のイマネ・ヘリフ(アルジェリア)が1日の2回戦で勝利し、57キロ級の林郁婷(リンユーティン)(台湾)も2日の2回戦で勝利し、準々決勝に進みました。SNS上の反応など一連の事態をどのように見ていますか。
性のありようは、高度なプライバシーに関わる情報です。当事者が自ら公表していないにもかかわらず、推測に基づき、「トランスジェンダーではないか」「DSDs(性分化疾患)ではないか」などと公然と論じることは、あってはならない行為です。
確かに、「スポーツの公平性」をみいだそうとする議論は重要です。しかし、それは今回のように選手を傷つけるような形ではなく、競技関係者や専門家らによって冷静に行われるべきです。
――一般論として、DSDsとはどのような状態なのでしょうか。
人間の性に関わる発達は、とても複雑な過程をたどります。多くの人とは異なる過程を経て、性染色体や性腺、内性器、外性器が非典型的である状態の総称がDSDsとされ、そこには様々な状態が含まれます。
世界ボクシング協会の検査、「公平性や妥当性に疑問」
――昨年の世界選手権で、林選手は準決勝で敗れて銅メダルとなるはずでしたが、世界ボクシング協会(IBA)が準決勝の2日後、メダル剝奪(はくだつ)を発表しました。IBAは林選手に対して、性に関する検査を行っていました。
両選手が実際に受けたかどうかは不明ですが、性に関する検査の一つに、テストステロン値を測るものがあります。
テストステロンはアンドロゲンと呼ばれる、男性に多いとされるホルモンの一種で、筋肉量を多くする作用があるとされています。ただDSDsの場合、テストステロンにほとんど反応しないケースもあり、筋肉量に直結するとは限りません。
そもそも、人種や住んでいる…
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- 【視点】
この騒動を巡っては、当初、「トランスジェンダーの選手が女性選手を一方的にボコボコにしている」といった形で話が流布され、炎上した。 しかしその後、トランスジェンダーではない女性選手であるということが公表されるや、次は「この選手は性分化疾患(D
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