戻りたい、でも戻れない だけど祖国は離れない クリミア併合10年

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キーウ=藤原学思

 クリミアに戻りたい。心から思う。30年近く暮らした故郷。妻と出会った場所。娘2人が生まれた土地。だが、いつ戻れるのか、わからない。

 セルヒー・ビカルチュクさん(39)はいま、キーウ近郊で妻と4人の娘と暮らす。リビングに置いてあるのは、155ミリ砲弾。近隣の学校で「ウクライナの防衛」を教える際に持っていく。

 「市民とは、単に暮らす人。愛国者とは、国のために行動する人」。子どもたちにそう教える。

 1歳からウクライナ南部クリミア半島のエフパトリヤで育った。半島西部にある海沿いの街だ。地元の大学に通い、地元の役所に就職。担当は地元の観光促進だった。

 「当時、観光客の25%はロシア人。付き合わねばならなかった」。表面的にはうまくやっていたが、ロシア系の人たちとは緊張関係があった。

 「エフパトリヤは多民族、多文化の街。ただ、ロシア系の市民は他の民族をバカにすることが多かった」。自らがウクライナの文化イベントを催したときも、ロシア系から抵抗にあった。

 2014年2月、半島南部ヤルタの展示会に出ていると、ロシア人から声をかけられた。「私たちがもうすぐ、君たちを解放してあげる」

10年前の「住民投票」の光景は

 2月20日にクリミア占領作戦を始めたロシアは、3月16日に併合の賛否を問う「住民投票」をクリミアで実施した。ビカルチュクさんは投票所の光景を覚えている。

 「見たこともない軍人がいた…

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この記事を書いた人
藤原学思
ロンドン支局長
専門・関心分野
ウクライナ情勢、英国政治、偽情報、陰謀論
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