「お手本」にも光と陰 台湾出身の芥川賞作家が見たいびつな日台関係

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聞き手・岩田恵実

 今年1月の台湾総統選の投票率は7割を超え、候補者の集会に大勢の若者が参加して声援を送る姿が日本でも注目されました。「民主主義のお手本」とも評され、日本との議員交流も盛んな台湾ですが、台湾出身で日本に移住した芥川賞作家の李琴峰(りことみ)さん(34)は、台湾社会にも「光と陰がある」といいます。李さんから見た台湾の姿について聞きました。

 ――なぜ台湾は政治への熱が高いのですか。

 台湾は、戦後の独裁体制下から民衆が民主化を勝ち取った歴史があります。それを学校で教わり、自由な選挙の大切さを学びます。

 さらに台湾は、中国との関係性をめぐる問題を抱えています。中国からの圧力が強まる中、中国にのみ込まれてしまうのではないかといった警戒心が、政治への関心を高めています。

 そして、まさにその問題に直面して起きたのが2014年の「ひまわり学生運動」でした。中国とのサービス貿易協定を強行採決しようとした国民党政権に若者らが反発して立法院(国会)を占拠し、その後審議のやり直しが決まりました。この体験が、政治参加の大切さを若者に教えたのです。

台湾にある無邪気な信念

 ――一方で日本では政治への熱が高くありません。特に若者の政治離れが顕著です。

 根本には、政治に対する無力感が広がっています。年金制度などへの信用がなく、「どうせ変わらない」という思いから、若者は政治に頼らず、自分自身で何とかするという方向に向かっているように見えます。

 また台湾では大学卒業後にNPO活動など社会運動に参加してから就職する人もいますが、日本の新卒重視の就活システムの下ではそうした活動に参加するのは簡単ではありません。

 台湾でも、そうそう政治は変わりません。それでもひまわり学生運動の成功体験もあり、「1人ではダメでも、大勢集まれば動かせる」という無邪気な信念があるように感じます。

 ――台湾は民主主義のお手本のように言われることもあります。

 政権交代をしているので民主主義の最低限の条件は達成していますが、問題もあります。歴史的に見て台湾の民主主義の実現は、台湾の主体性を重んじ、台湾の未来は台湾自身が決めるという「ナショナリズム」の高揚によって進んだ側面があります。ひまわり学生運動もそうです。

 台湾では、自由や人権といった普遍的な価値観を掲げるリベラリズムの動きと、ナショナリズムの動きは密接に関わり合ってきましたが、衝突することもあります。そして両者が衝突した場合、優先されるのはいつもナショナリズムではないかという問題があります。

2013年に来日した際、時代の空気の変化を感じたという李さん。日本が台湾に注目をするようになったのはそのころからだと言います。

小説にも描いた一幕

 ――どんなことがあったのでしょうか。

 多様な性的アイデンティティ…

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この記事を書いた人
岩田恵実
瀋陽支局長
専門・関心分野
中国、事件、災害
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    安田峰俊
    (ルポライター)
    2024年3月19日3時7分 投稿
    【解説】

    自民党はかつて、台湾に対しては国民党とのパイプが太く、野党時代(1990年代まで)の民進党との関係は比較的脆弱だったといいます。 ただ、陳水扁氏の総統選出前に、清和会系の大物政治家たちが(国民党の李登輝氏とは違うルートで)民進党とパイ

    …続きを読む