ふるさと残したい、農作業しながら詩作する元小学校長が農民文学賞

西江拓矢
[PR]

 農業をしながら詩を作っている元小学校長の武西良和さん(76)=和歌山県岩出市=の詩集「メモの重し」が、農業や農村の生活などを描いた作品を対象にした第67回農民文学賞を受賞した。

 武西さんは、現在の紀美野町出身。30代から詩作を始め、「わが村 高畑」「子ども・学校」など数々の詩集を出版。小学校の校長時代は、校長室前に自作の詩を張り出し、子どもたちに感想を書いてもらった。

 教員を退いた後、2010年から、ふるさとの紀美野町で農業を始めた。過疎が進み、農地が荒れ、このままでは生まれ育った地区がなくなってしまう、との危機感からだった。本やインターネットで栽培法を学び、岩出市の自宅から通って梨やブドウなどを植えた。

 季節の移り変わりや天気の変化を肌で感じ、農作物の成長を間近に見られる時間。害虫や作物の病気、野生鳥獣の被害に悩まされながらも、農作業を嫌だと思ったことは一度も無いという。

 作業に汗を流しながら、浮かんだ言葉をメモ帳に書き留める。その言葉を半年、1年後に見直す。時間がたって見返すことで、冷静に見られるからだという。そして、「ちょっと着飾っているな」などと感じた言葉をそぎ落とし、さらに推敲(すいこう)を重ねて、作品に仕上げていく。

 今回の詩集では、春、夏、秋、冬の4章にわけ、季節に合わせた作品を掲載。タイトルに選んだ「メモの重し」は、知人の死を電話で聞き、メモに書いたが、飛んでいかないように、たまたまあったニンジンを重しにした情景を作品にした。ほかにも、カメムシやクモなども題材になる。

 農民文学賞は1957年に創設。選考委員は、文芸評論家で明治大学教授、伊藤氏貴氏、作家で法政大教授、中沢けい氏ら。今回は、武西さんと、松田喜好さん(千葉県)の小説「藁小屋【冬の章】」が受賞した。4月29日に東京で贈呈式が予定されている。

 受賞について、武西さんは「ふるさとの人たちの励みになれば」と喜ぶ。農業を始めて十数年となったが、まだ書き残していることがあると感じている。それが何かはまだつかめないが、「もっと掘ると何かが見えてくる気がする」。22年秋にアキレス腱(けん)断裂の大けがをしたが、いまは回復。ほぼ一日おきに作業に通っている。

 「メモの重し」(土曜美術社出版販売)は、2200円(税込み)。(西江拓矢)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年4月2日14時8分 投稿
    【視点】

    武西良和先生(当時は、国語科の先生)の詩集を読んだことがある。それは詩を通した子どもたちとの交流が、武西先生と子どもたちとの関係性が見えてくるようなものだったが、『メモの重し』は春から夏へ、夏から秋へ、秋から冬へ、冬から春へと移ろう季節感と

    …続きを読む