H&M広告削除が映す「子どもの人権」への姿勢 感覚麻痺の日本では

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写真研究者・小林美香=寄稿
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写真研究者・小林美香さん寄稿

 アパレルブランドH&Mが、1月にオーストラリアで展開したキャンペーン広告への「女児の性的対象化につながる」という批判を受けて削除し謝罪した。この件がSNS上で話題になる中で浮かび上がってきたのは、広告を構成する写真と文言の関係、及び広告が受容される地域・文化的背景の違いである。

 批判された広告は、Facebookのスポンサー広告として公開されたもので、「H&M」のロゴの下にキャッチコピーのテキスト「Make those heads turn in H&M’s Back to School fashion(H&Mの新学期ファッションを着て、注目を集めよう)」が記され、写真には鮮やかなピンク色の背景にそろいの濃いグレーのワンピースを着た女児2人が向き合って立ち、振り向くようにして視線を正面に向けて写っている。

 2人は前髪こそ少し異なるが、身長や顔立ちも似ているため、あたかも双子のような風情を醸し出している。写真にはワンピースの値段とロゴが配置され、「新学期開始に備えて、学齢期子ども服購入に関心がありそうな保護者層」を主要なターゲットオーディエンスとして訴求する意図がうかがえる。

 ターゲットオーディエンスがFacebookの投稿の中で「Make those heads turn(辞書では『注目を集めよう』という定義が記されているが、実際会話で用いられる際には『性的な魅力で異性を振り向かせよう』というニュアンスを帯びたフレーズとして理解される)」という文言とともにタイムラインに流れてきた広告を目にした時、女児が「性的な意図も含む視線を向けられること(セクシズム)」や「外見で注目を集めて評価されること(ルッキズム)」を進んで受け入れるように誘導するメッセージとして読み取られた。そのことが、「女児の性的対象化につながるのでは」という反応につながり、子ども服を宣伝する上では不適切な文言を使用したと指摘されるに至った。

 ところで、H&Mはこの広告以前にも、2023年のハロウィーンのキャンペーンの時にもSNS上の子ども服の広告で「get ready to turn heads」という文言をキャッチコピーの中で用いた投稿を行っており、その際には今回のようには広告が「炎上」することはなかったことも指摘されている。

 そういった経緯を踏まえると、文言だけではなく、写真の方にも見る側に引っ掛かりを感じさせる要素を備えていたのではないだろうかと思われる。

 一つには、ピンク色の背景の中央に左右対称になるように女児を立たせ、ピンクとグレー、白というコントラストのはっきりした配色の中で2人の視線を際立たせる、という写真の構図・色彩の視認性の高さがある(ピンク色の使用は同時期にH&Mがマテル社のバービー人形とコラボして商品展開したことも関連する)。

 また、双子のようによく似た容姿の女児が並ぶことで生じる視覚的なインパクトもある。著名な映画や写真作品からの連想になるが、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画『シャイニング』(1980年)で双子の女児が登場するシーンや、アメリカの写真家ダイアン・アーバスの作品「一卵性双生児」(1966年)が思い浮かぶ。あどけない表情であったり、屈託なく笑って子どもらしくふるまったりするのではなく、すました表情で女児2人がこちらをじっと見つめているというポーズや表情が、商品の宣伝にとどまらない訴求力やある種のミステリアスなニュアンスを発生させ、そのことが見る側の想像力を喚起させたのでは、という見方もできる。

腑に落ちる? 「おぼつかなさ」の背景は

 写真と文言を別々に分け、その意図と表現の特徴を分析してきたが、この広告が「女児の性的対象化につながる」ような明確な性差別的表現として問題視されたことが腑(ふ)に落ちるかと問われると、私個人としては正直おぼつかないものがある。

 なぜそう感じるのか。

 このおぼつかなさは、広告の…

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2024年3月6日9時12分 投稿
    【視点】

    H&Mの広告への批判と削除をめぐる一連の動きは日本でも報道されましたが、記事で小林さん自身も「おぼつかない」とされているように、多くの日本人にとって何が問題なのか、女の子の性的対象化にどうつながっているのか、いまいち「腑に落ちない」のでは、

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