第15回気づけなかった戦争トラウマ 信田さよ子さんが見た虐待の奥底

有料記事戦争トラウマ 連鎖する心の傷

後藤遼太

 家庭内暴力(DV)や虐待を受けた女性たちの声を長年聞き続けてきたカウンセラーの信田さよ子さんは、壮絶な暴力の背後に、夫や父たちの戦争体験を感じることがありました。ただ、女性たちの苦悩と「戦争トラウマ」が結びついたのは、ごく最近のことだといいます。

 ――1995年に原宿カウンセリングセンターを立ち上げました。

 多くの世代の女性たちのカウンセリングをしてきました。その中で気づいたことがあるんです。95年当時に40歳前後だった世代の女性たちが受けた虐待経験が、他の世代と比べて際立ってすさまじかったんです。

 例えば、娘の耳と口に父が指を突っ込んでつり上げるので口の端が裂けてしまうとか、全裸で木につり下げられ、青竹で殴られ続けるとか。母の髪をごっそり抜くという話もありました。日本刀を持ち出してきて家族を脅すという父も多かったですね。

 酒乱の父がいつ「臨界点」を迎え、めちゃくちゃに暴れて家中を破壊しだすか。子どもたちが息を潜めて待つのが日常という家庭が、珍しくなかったんです。

 時には、身体的暴力以外に、妻や娘に対する性的虐待もありました。母が殴られ、娘が殴られ、生き延びるために母が娘を差し出したというような話も、数多くありました。

 彼女たちに詳しく聞いていくと、多くは「父は戦争から帰って人格が変わり、ひどい酒飲みになって暴力を振るった」という話に行き着くんです。「むき出しの暴力性」とでも言えばいいのか。復員兵の家庭におけるDV・虐待は明らかに、その後の世代の家庭と質が違いました。

飲んで吐いて眠り、殺した

 ――復員兵たちの暴力には共通した原因があったのではないかと。

 ところが、当時私は父たちの…

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    座安あきの
    (ジャーナリスト・コンサルタント)
    2024年3月1日9時5分 投稿
    【視点】

    沖縄では10年以上も前から、精神科医や保健師、研究者らを中心に戦場体験者の精神的被害が今の世代に影響を与えている実態が発信され、より詳細な調査とケアの必要性が訴えられてきました。診療の現場から問題の深刻さに気づき、積極的な調査を呼びかけてき

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