ガザの人道危機を前に 平和への思いが法に力を与える 松尾陽さん
「憲法季評」 松尾陽・名古屋大学教授(法哲学)
2023年12月29日に、南アフリカ共和国が、ガザ地区でのイスラエルの軍事行動はジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)上の義務に反するとして国際司法裁判所に訴えた。
この軍事行動は、直接には、同年10月7日に起きた事件に端を発する。イスラム組織ハマスを中心とする勢力がガザ地区の境界を越えてイスラエルの一般市民に奇襲攻撃をかけ、1200人以上の市民が殺害され、240人ほどが人質となった。イスラエルは、人質の奪還と自衛のためにガザ地区を完全に封鎖し、陸海空から大規模な軍事行動を断行した。
対象エリアの警告を出して空爆を行ったものの、新生児や傷病者も含む人口密集地帯であるガザ地区の住民が短期間で十分な退避ができるわけもなく、また、病院への爆撃もあり、子どもを含む2万人以上の死者が生じ、数十万もの住居も破壊された。人質救出や自衛としては過剰だと言わざるを得ず、「人間の姿をした獣と戦っている」というイスラエル高官の言葉に本音が透けてみえる。
南アフリカ側の弁論では、パレスチナ人の虐げられてきた歴史も語られた。ガザ地区に暮らすパレスチナ人の多くは故郷を追われた難民であり、ガザ地区は有刺鉄線のフェンスで囲まれ、その電力供給もイスラエル側の協力が必須だ(事件後、電力供給がストップした)。生活条件の破壊も、条約上、ジェノサイドの一つとなる。アパルトヘイトの歴史を乗り越えた南アフリカ政府が、このようなパレスチナ人の現状に自分たちの歴史を重ね合わせ、訴えを提起したことは十分に理解できる。
今年1月26日、国際司法裁…