ハンセン病を生きた「舌読」歌人の金夏日さん 遺骨はふるさと韓国へ
高木智子
点字が連なる本に男性が顔を近づけると、おもむろに舌先で触れていった――。「舌読(ぜつどく)」で知られる歌人金夏日(キムハイル)さんが96歳で亡くなり、昨年秋に遺骨が群馬県草津町からふるさとの韓国へと旅立った。来日から80年余。在日コリアンとハンセン病患者としての人生を生き抜き、いま、両親とともに眠る。
夏日さんは植民地下の朝鮮半島の農家に生まれ、13歳で海を渡った。当時は「らい」と呼ばれたハンセン病がわかり、人生が狂い出した。終戦したのに、平穏は取り戻せなかった。
「読みたい、表現したい」その思いが、「舌読」に
ハンセン病患者の強制隔離を定めた「らい予防法」のもと、草津町の療養所「栗生(くりう)楽泉園」に入った。家族はバラバラになり、病も進行して両目を失明。唯一の生きがいが歌を詠むことだった。
〈久々に点字の手紙読み終えて舌先少しほてりを覚ゆ〉
夏日さんを有名にしたのが「舌読」だ。病のせいで視力を失い、指も使えない。それでも自分で本を読み、学びたいという知的欲求を満たそうと、感覚が残っていた舌の先で点字を読んだ。
「戦争で手を失って、点字を読めなくなった盲人が、唇で読んでいる」と聞いたことが始まりだった。
舌が凹凸ですり切れ、血で染…