「47項目中30項目は未了」 リニアめぐる課題に静岡県が現状認識

大海英史 田中美保 青山祥子
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 リニア中央新幹線の静岡工区をめぐる議論の進み具合について、静岡県は5日、2019年に提示した47項目の課題がどれだけ解決しているかをまとめた見解を発表した。大井川の水資源問題は一部項目で課題が「終了」としたが、南アルプス生物多様性とトンネル工事の発生土の問題では終了したものはなく、47項目中の30項目を「未了」と評価。静岡工区の着工には、これらの解決が必要とする考えを改めて示した。

 JR東海に助言・指導する国の有識者会議が昨年12月までに報告書をまとめたことを受け、リニア問題を担当する森貴志副知事がJR東海との「対話を要する事項」の進み具合について会見を開いて説明した。

 47項目は、県が「解決が求められる課題」として19年9月にまとめたもので、国の有識者会議ですべてを議論するよう求めてきた。ただ、JR東海や国は課題の解決に向けた方向性はまとまったとの意向を示しており、県側との認識の違いが鮮明になっている。

 水資源の確保策をめぐっては、26項目のうち半数を超える17項目について指摘や疑問点が解決するなどで「終了」とした。大井川から県外に流出する水を補う田代ダム取水抑制案について、JR東海がダムを管理する東京電力リニューアブルパワーと昨年12月に基本合意したことから、「対話は進捗(しんちょく)した」と評価した。

 その一方、残る課題としては、どのように取水抑制を進めるかの運用方法や、ダムの水が取水抑制や発電に必要な量を確保できない状態が続いた場合の対応などを挙げた。こうした9項目は「未了」とし、今後の対話が必要と判断した。

 生物多様性については、議論が進んでいるものもあるとしたものの、17項目のすべてを「未了」とした。有識者会議が、環境への影響を分析して保全や監視をしながら必要な見直しをする「順応的管理」を示したが、県は「(指摘が)反映されていない項目が多く残っている」とした。

 具体的には順応的管理をするための生物への影響予測・評価、重要な種の確定や指標となる種の選定、生物への影響の回避したり影響が出た際の代償などを挙げた。大井川の濁りや水温の変化による昆虫など底生動物への影響も指摘した。

 トンネル掘削で出る残土については、4項目とも「未了」とした。JR東海が大井川上流沿いに計画する発生土置き場に東京ドーム3杯分の盛り土ができるとして、土石流の同時多発の可能性や斜面崩壊などの懸念を示した。

 併せて県は同日、JR東海側にも今後対話が必要だとして通知した。「未了では工事着工は認められないのか」という記者からの質問に、森副知事は「基本的にそうだ」と述べ、引き続き、県の専門部会で対話を進めるとした。「(難しい調査を)100%何年もかけてやれと言うつもりはない」(石川英寛・政策推進担当部長)とするが、解決には時間がかかりそうだ。

静岡県が課題として示した主な項目

【水資源の確保策】26項目のうち「未了9」

・田代ダムによる取水抑制の運用の詳細

モニタリングを行う場所や頻度、監視体制など

【生物多様性の維持策】17項目のうち「未了17」

・トンネル工事前に行う生物への影響予測や評価の具体的方法

・沢の流量変化による上流域の生物調査

・トンネル湧水の量や質、地下水位の観測

・水の濁りや温度上昇による底生生物への影響

【トンネル残土置き場】4項目のうち「未了4」

・土石流や地滑りなどを想定した対策

・置き場の立地や設計、モニタリングなどの詳しい計画

・対策が必要な重金属などを含んだ残土の処理

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