第1回人はなぜ「破滅」にひかれるのか 沼野恭子氏の問いと小泉悠氏の反省
ウクライナ侵攻を続けるロシアという国をより深く知るために、沼野恭子・東京外国語大名誉教授(現代ロシア語文学)と小泉悠・東京大先端科学技術研究センター准教授(ロシア軍事・安全保障)が異色の対談を行いました。初回はロシア文学を通して戦争や人間の本質を考えます。
戦争が起こるのは、結局のところ
――現在のウクライナ侵攻を読み解く上で、ロシアの歴史や文学から学べることはありますか。
沼野 トルストイ(1828~1910)の恋愛小説「アンナ・カレーニナ」では、ヒロインの恋人が最後に、帝政ロシアとオスマン帝国の間で起きた露土戦争(1877~78)に自ら志願して出征します。この戦争は南下政策をとっていたロシアが、バルカン半島のスラブ系住民を「保護」するという名目で始めたものです。「ウクライナ東部のロシア人やロシア語話者の保護」を掲げて始まったウクライナ侵攻に通じる要素があります。
一方、トルストイは作中で、自身の分身的な役割を帯びる人物に、「戦争は国家が始めるものであり、民衆は賛同していない。トルコ人を殺す必要もない」などと否定的な意見を語らせており、当初は雑誌に掲載を拒否されました。「戦争と平和」(19世紀初頭のナポレオン戦争に揺れるロシア貴族を描いたトルストイの代表作)でも、戦争は理不尽であり、やめるべきだというトーンが一貫して流れています。
ウクライナ侵攻が始まってまもなく2年。国際社会の批判や経済制裁を受けながらも戦争を続けるロシアとは、一体どんな存在なのでしょうか。ロシアをよく知る2人による、異色の対談から見えたものとは。記事後半には2人がロシアについて熱く語る動画もあります。
小泉 僕はウクライナ東部の激戦地バフムートなどの戦況を追っていて、「戦争と平和」で克明に描かれた(ナポレオン軍とロシア軍の)地上戦の様子を思い出しました。人間は陸上生物ですから、戦争が起こるのは結局のところ地上なんです。
小泉氏 「自分は浅はかだった」
大砲の射程が伸びたり、ドロ…
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