第12回「泣ける」悲劇やヒロイズムで戦争は描けるか 塚本晋也監督の問い
戦後社会で長く埋もれてきた「戦争トラウマ」。最新作「ほかげ」で、塚本晋也監督は、元兵士や戦争孤児らの「終わらない戦争」を描きました。「ヒロイズムや悲劇だけでは、本当の戦争は描けない」と話す塚本監督が、今の時代に抱く危機感とは。
戦争が終わるのは素晴らしい……じゃなかった
戦争が終わることは素晴らしい。だから、当初僕が「闇市企画」と呼んでいた映画構想では、「戦争が終わった! 万歳!」というような映画をつくろうと思っていました。
ところが、戦後70年で「野火」を作っていく中で、色々な資料を調べていくうちに、びっくりしてしまった。
「なんだ、戦争が終わっても、『戦争が終わらない人』ばかりではないか」と。終わらない人たちを描かないと、戦争の恐ろしさを描いたことにならないんじゃないか。そんな思いで、「ほかげ」に着手したんです。
「野火」と「ほかげ」は、戦争トラウマや兵士のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を描いた作品です。極限の戦場での人肉食を描いた「野火」では、ラストなども含めて大岡昇平の原作小説から、自分なりに置き換えをして作りました。
原作では最後、主人公は精神科病院に入ってしまうのですが、映画のラストでは主人公は普通に家で生活しています。ただ、なぜかご飯を食べる時だけ不思議な儀礼的な動きをしてしまいます。「日常の中に地獄が続いている」という結末にしたかったからです。
そして最新作「ほかげ」では、戦場での加害行為と、そのトラウマに苦しむ兵士について描きました。今まで、日本ではこうした映画は無かったのではないかと思います。特に加害行為なんて、お客さんはいい気持ちしませんから。
日本の戦争映画は「ヒロイズム」か「悲劇」
日本の戦争映画は、分かりや…