「東京駅まで電車44分」 京葉線のダイヤ改定、不動産業にはや影響

重政紀元
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 JR京葉線のダイヤ改定の余波が収まらない。JRは通勤時間の上り2本の快速を残す異例の修正を決めたが、東京直行の通勤快速の廃止は変えなかった。沿線の不動産開発にとって利便性の変化は死活問題。通勤快速を利用できることが売りだった蘇我駅(千葉市中央区)周辺では、すでに営業に影響が出ている。(重政紀元)

 蘇我駅からひと駅の外房線鎌取駅(千葉市緑区)近くで販売中の住宅団地。広告には朝夕各2本の通勤快速の利用を前提にした、「東京駅まで電車(直通)44分」の文字と路線図が3分の1以上を占め、東京への利便性の良さが大きくアピールされている。

 「お客さんに説明するときに通勤快速の存在は大きかったが、変えないといけなくなる」。不動産会社の営業担当者は苦笑いする。

 通勤快速は蘇我駅と新木場駅(東京都江東区)をノンストップで結ぶ。各駅停車化で、東京―蘇我間の所要時間は朝で平均14分、夕夜間帯は19分ほど増える見込み。「所要時間が60分近くなればセールスポイントにはならない」という。

 販売面の柱の一つになっている注文住宅でも影響が懸念されている。この会社の営業力の強い内房線、外房線沿線では、都内に通勤する人のほとんどが通勤快速の利用を前提に購入を決めているためだ。「駅近の立地や建物のデザインなど住宅としての魅力は変わらないのに、本当に困ったことになった」

 蘇我駅東口では新築マンションの建設が急増している。2月にも販売開始予定という大規模マンションを建設中の大手不動産会社は、マンションのホームページで都内への通勤モデルケースに通勤快速を用いたままだ。この会社の担当者は「情報が流動的」としてコメントを避けた。

 蘇我駅西口では25年ぶりとなる分譲マンションを建設中の会社の担当者は、「うちは既に全戸完売が決まっているが、通勤快速の利用は販売での売りの一つだった。もしこれから販売というのであれば、こんな環境変化は大打撃になるところだった」と話す。

 海浜幕張駅が最寄りとなる国内有数のコンベンション施設「幕張メッセ」。千葉市の神谷俊一市長は、「影響は既に出ている」と強調する。昨年末に幕張メッセで行われたイベントを視察した際、主催者から今後の開催地の再検討をほのめかされたと明かす。

 幕張メッセでは世界最大級のゲーム展示会「東京ゲームショウ」など大規模イベントが開催されており、来場者は年間600万~700万人に上る。周辺のホテルや商業施設の売り上げにも直結している。

 幕張メッセの生稲芳博・代表取締役専務は、「東京ビッグサイトなどとの激しい競争が行われているのに、東京からの時間的距離が出れば、ここでイベントをしようという主催者は間違いなく減る。ようやくコロナ禍からの回復が見えてきたときで最悪のタイミングだ」と話す。

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 京葉線は、東京港と千葉沿岸のコンビナートを結ぶ貨物線として建設された。高度成長期に、沿線の宅地需要が進んだことで旅客線としての利用検討が始まり、1986年に西船橋―千葉港(現千葉みなと)で開業。延伸は進み、88年に新木場―南船橋が完成して東京とつながった。

 当初は、ららぽーと TOKYO―BAY(完成81年)、東京ディズニーランド(同83年)、幕張メッセ(同89年)といった商業・観光施設へのアクセスが中心で、週末利用が多いレジャー路線だった。

 一転したのは90年の東京駅への直結だ。ラッシュ時の混雑率が250%を大きく超えるなど、日本有数の混雑が続いていた総武快速線の代替となる通勤路線の役割を担うことになり、内房線、外房線からの直通列車も導入された。

 特に効果が大きかったのが通勤快速だ。各駅停車に比べて東京までの所要時間を大きく縮め、内房線・外房線の沿線から都内への通勤を可能にする大きな要因になり、周辺の宅地開発につながった。

 ただ、JRは2022年春のダイヤ改定でも、「前後の列車に比べて乗車率が低い」などとして、平日に上下6本だった通勤快速を4本に削減している。

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 〈京葉線のダイヤ改定〉JRは昨年末、3月から午前10時~午後3時台を除いた通勤時間帯の快速をすべて各駅停車に置き換え、朝夕各2本の通勤快速も廃止すると公表。千葉市など沿線自治体の猛反発を受け、JRは16日、直通する内房線、外房線の駅を午前6時台に出発する上り快速2本に限り運行を維持する異例の見直しをした。ただ、平日1日あたりで通勤快速と快速の上下計59本を26本まで縮小する改定の大枠は変えていない。

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