届いた1通の内部告発 疑問のなか突き進んだ捜査 起訴取り消し事件

有料記事

比嘉展玖 編集委員・吉田伸八
[PR]

 軍事転用可能な機器を無許可で輸出したとして「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長らが逮捕、起訴され、後に起訴が取り消された事件で、社長らが捜査の違法性を訴えた訴訟で、東京地裁は27日、起訴や逮捕の違法性を認め、国と都に賠償を命ずる判決を出した。

 「貴社に有益かつ警察側に不利益となる情報が明らかになると確信しています」

 大川原正明社長らが逮捕されてから8カ月後の20年11月。大川原化工機の本社に1通の手紙が届いた。裁判で同社に有利な証言をする人物としてひとりの捜査員の名前が記され、封筒の裏には「警視庁」とあった。匿名の内部告発だった。

 手紙で名指しされていたのは、訴訟で事件を「捏造」と発言した捜査員とは別の人だった。同社の代理人弁護士はこう振り返る。「捏造発言をした捜査員以外に捜査に疑問を抱いていた人が内部にいたということだ」

 警視庁内部ですら複数の捜査員が疑問を抱いていた捜査は、どのように進んだのか。

 捜査が始まったのは17年春。公安部が同年11月に作成したチャート(構想図)は「大川原化工機(株)と中国軍需産業との繫(つな)がり」と題し、「外事容疑性」と記されていた。外国勢力の関与があるかどうかは、外事警察にとって重要な要素だ。同部の現役捜査員は「公安部は事件が少ないから、これと決めて走り出したら突っ走る」という。

 だが20年3月の逮捕時、当時の捜査幹部は取材に、外国勢力の関与を否定。「純粋な経済事件」とした。事件は、同社の噴霧乾燥機が輸出規制の対象になる、という組み立てだった。

 捜査には、内外から指摘が多く寄せられていた。

 輸出規制を巡り、警視庁との打ち合わせを繰り返した経済産業省は、捜査初期段階では、同社の機器が規制対象に当たることについて消極的だった。訴訟の証人尋問に出廷した経産省職員は、同社の機器が規制対象でない可能性を警視庁に何度も伝えたと証言。「警察が熱心だったのでクールダウンしてもらう趣旨だった」と述べた。「警察が該当と勘違いするのが嫌だったのか」との質問には、「そういう気持ちもあった」と語った。

 警視庁の捜査が適正かをチェックし、起訴するかを決めるのは検察だ。朝日新聞が確認した警視庁の内部文書には、起訴した東京地検の検察官が、経産省の省令解釈についての捜査が不十分である可能性に触れ、「不安になってきた。大丈夫か。私が知らないことがあるのであれば問題」などと発言した、との記述があった。

別の内部文書「意図的に立件方向にねじ曲げととられる」

 別の内部文書では、21年7…

この記事は有料記事です。残り1915文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【本日23:59まで!】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    吉岡桂子
    (朝日新聞記者=中国など国際関係)
    2023年12月28日3時23分 投稿
    【視点】

    中国経済を担当する記者の一人として、21から22年にかけて経済安保の取材にも加わっていました。とりわけ中国との関係で経済安全保障の重要性が指摘されており、取材をしていても政府や自民党からは「国策」として推し進める高揚感を感じました。この記事

    …続きを読む