国と東京都に約1.6億円の賠償命令 「大川原化工機」国賠訴訟

金子和史
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 生物兵器の製造に転用できる機器を無許可で輸出したとして逮捕、起訴され、その後起訴が取り消された「大川原化工機」(横浜市)の社長らが、東京都と国に計約5億7千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が27日、東京地裁(桃崎剛裁判長)であった。判決は「必要な捜査を尽くさなかった」として、警視庁の逮捕、東京地検の起訴を違法と認め、都と国に計約1億6千万円の賠償を命じた。

 警察の逮捕に加え、検察官の起訴を違法とした判決は極めて異例だ。

 警視庁公安部は2020年3月、同社の「噴霧乾燥機」は軍事転用可能で、輸出規制の対象なのに国の許可を得ずに輸出したとして、外国為替及び外国貿易法違反の容疑で大川原正明社長ら3人を逮捕した。

 東京地検が同月に起訴したが、21年7月、輸出規制の要件の一つである殺菌性能を同社の機器が満たすと立証できないとして起訴を取り消した。この間に逮捕、勾留されていた同社顧問の相嶋静夫さんは胃がんが悪化し、72歳で亡くなった。

 判決は、公安部の逮捕前の任意聴取で、機器の設計担当だった相嶋さんら複数の従業員が、機器には殺菌に必要な温度に達しない箇所があると具体的に説明しており、その確認は「犯罪の成否を見極める上で、当然に必要な捜査だった」と指摘。実験をしていれば殺菌できないことは容易に明らかになったのに、これをせずに逮捕したことは違法だった、と認定した。

 地検の検察官も、起訴前に同様の報告を受けており、確認していれば要件に該当しないことは「容易に把握できた」と指摘。勾留請求や起訴が違法だったと判断した。

 また、公安部の警部補が元役員に対し、殺菌要件の解釈をあえて誤解させた上で供述調書に署名押印させたとし、「偽計を用いた取り調べだ」として、違法性を認めた。

 訴訟では今年6月、証人として出廷した現役の公安部の警部補が、事件について「まあ、捏造(ねつぞう)ですね」と証言。別の警部補も「捜査幹部がマイナス証拠を全て取り上げない姿勢があった」などと述べていた。(金子和史)

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