記者コラム 「多事奏論」 編集委員・後藤洋平
「失礼を承知のうえでお願いです」。昨年11月、中学時代に同じ塾に通っていた同学年の佐藤かおりさん(47)から、SNSでメッセージが届いた。30年以上顔を合わせていなかった知人からの久々の連絡には「数時間前、コロナワクチンを接種した後に母が突然亡くなった」ことと、取材の相談がつづられていた。
佐藤さんは大阪在住の経営者で、私は東京在住の文化(主にメディアとファッション)担当記者。この時は知らされた内容を、大阪在勤の同僚に引き継いで取材を進めてもらうことにした。
だが5月、この件は突然、私の取材領域でも問題になる。NHKの「ニュースウオッチ9」が、コロナの分類が感染症法上で5類に引き下げられて1週間の機に、人々の思いを紹介するVTRを流した。ここで佐藤さんら、ワクチン接種後に亡くなった人の遺族3人が出演。「一体コロナってなんやったんやろって思いますね」などと語った。
しかし、3人がワクチン接種後に家族を亡くした遺族とは一切触れられておらず、あたかもコロナ感染症で家族を亡くした遺族かのような構成だった。今度は私から連絡を取り、問題を記事化した。
今月になって放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、NHKについて「放送倫理違反」との意見を公表した。その詳細を読むと、取材担当者が取材経験に乏しかったこと、担当デスクが「(遺族3人を)広い意味でコロナ禍で亡くなった人の遺族に変わりない」と判断したこと、責任者が内容を詰めないまま放送枠を与えたことなどが記されていた。出演した3人が、どのような遺族が集う団体に所属しているか調べたスタッフも他にはいなかった。つまりNHKの看板報道番組で、取材担当者だけでなく、番組の品質管理を担うデスクや責任者までもが報道のプロとして機能していなかったということだ。
BPOの意見書公表後、大阪…