京阪電鉄の名車「80形」を再塗装 保存目指す有志のプロジェクト

菱山出
[PR]

 大津市京都市を結ぶ京阪電気鉄道京津(けいしん)線で活躍した名車「80形」。滋賀県高島市で保存されている82号は塗装がはげ落ち、周囲に雑草が生い茂っているのを朝日新聞が2年前に報じたところ、有志が保存に向けたプロジェクトを立ち上げた。地道な活動で再塗装が完了し、往年の姿がよみがえった。

 80形は1997年に引退。スクラップになるのは忍びないと、2003年に有志がNPO法人「京津文化フォーラム82」を設立した。

 最初に製造された81、82号は解体を免れ、82号は石山坂本線近江神宮前駅の錦織(にしごおり)車庫(大津市)でNPOが管理した。その後、維持管理が難しくなり、NPO理事で電車好きの妹尾友希子さんが京阪から無償で譲り受けた。

 妹尾さんは高島市に土地を取得して線路を敷き、15年に「引っ越し」。しかし、翌年に妹尾さんが48歳で死去し、NPOも17年に解散した。

 朝日新聞は21年9月、見るに忍びない姿で放置されているのを報じた。これを受け、NPO元理事長の会社員橋本光弘さん(51)=京都府長岡京市=らが、再生・保存のプロジェクト「82ちゃんねる」を発足させた。

 橋本さんが代表になり、同年9月、車両の状態を確認し、草刈りをした。

 メンバーは月に1回のペースで再塗装に取りかかった。塗装がはげ落ち、地肌がむき出しになった金属に生じたさび落としから始まった。

 さび止めの塗料を塗り、パテで周囲の塗装との厚みを均一にするといった地味な作業が続いた。降雪のある冬と猛暑の8月は作業を中断した。

 作業は今年7月から本格化した。8月の中断を挟み、9月から再開。11月には計5回集まり、ローラーを使った手作業で塗装した。11月末にマスキングを取ると、濃淡グリーンの鮮やかなツートンカラーがよみがえった。12月10日、関係者に公開された。

 鉄道会社に勤務したこともある会社員西小路良さん(33)=兵庫県尼崎市=は「真っ暗になり、発電機で照明をつけて作業をしたことも。多くの人に見に来てもらえれば」。

 高島市在住で工務店経営吉津博元(ひろはる)さん(63)は現役時代の80形を「嫌というほど見ていた」という。「その80形が高島市にあるという記事を見て、電車の神様が『お前も手伝えよ』と言っているように思いました」と振り返る。

 東近江市で京都市電などの保存活動にも携わる会社員山本明弘さん(57)=京都市=は「電車の修復ならお手伝いできると参加しました。手作業なので安く仕上がりました」と喜んだ。

 橋本さんは「再塗装が完了した82号を妹尾さんが見たら『きれいになってええんとちゃう』と言うかも。妹尾さんや、作業をしてくれたメンバーにありがとうと言いたい」。今後、車内灯や前照灯が点灯できるようにする。「地元の人が楽しめるイベントも検討したい」と話す。(菱山出)

      ◇

 〈80形〉京阪電気鉄道などによると、1961年から70年までに16両が製造された。京津線は一部の区間が道路を走行する併用軌道で、急勾配と急カーブもある厳しい路線。これらの条件をクリアするため、長さ15メートルと小型の車体は、当時としては最先端の技術を集めた画期的な設計だった。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません