辺野古移設、浮かぶ合理性の乏しさ 土砂投入5年、三つの観点で検証

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棚橋咲月 渡辺丘 田嶋慶彦 小野太郎 伊藤和行
【動画】沖縄県辺野古の土砂投入から5年=平野真大撮影

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画で、政府が名護市辺野古沿岸に土砂投入を始めて5年がたった。今月8日、本社機あすかで上空を飛ぶと、辺野古崎を挟んで、土砂でほぼ埋め立てられた南側と、青い海が広がる北側の光景が対照をなしていた。

 周辺には、クレーン付きの作業船や、工事に抗議するカヌーを監視する警戒船などが20隻以上浮かんでいた。計画では米軍キャンプ・シュワブの沿岸部約150ヘクタール(東京ドーム約32個分)を埋め立て、1800メートルの滑走路2本をV字形に建設する。1キロ足らずの場所には人家が密集する。

 海への土砂投入は2018年12月14日に始まった。防衛省によると、南側(39ヘクタール)では今年10月末時点で計画の99・7%にあたる318万立方メートルが投入され、北側(111ヘクタール)も含めた埋め立て予定区域全体の4分の1が陸地化した。ただ、埋め立てに必要な土砂量は約2020万立方メートルで、投入を終えたのは約15・7%となっている。

 北側の大浦湾では「マヨネーズ並み」とも言われる軟弱地盤が見つかり、政府は7万本以上の杭を打ち込む地盤改良工事を予定する。そのための設計変更申請を沖縄県が認めず、国は県に代わり承認するための「代執行訴訟」を起こした。福岡高裁那覇支部で20日に判決が言い渡される。国が地方自治体の事務を代執行した前例はなく、司法判断が注目される。

 政府は辺野古移設が「唯一の解決策」として埋め立てを加速させる姿勢だが、完成は早くても12年後とされ、総工費も1兆円近くに膨らんでいる。軍事的な難点や、豊かなサンゴ礁など環境への影響を懸念する声が日米両国内から出ている。

 1995年、米兵3人による少女暴行事件が発生。米軍基地の整理縮小を求める大規模な県民大会に発展し、対応を迫られた日米両政府は翌96年、基地負担軽減の象徴として、住宅地の真ん中に位置する普天間飛行場の返還に合意した。

 ただ、返還は県内移設が条件とされ、当初は辺野古沖に撤去可能な海上ヘリポートをつくる予定だったものの、日米両政府は2006年に現在の計画に合意した。

在沖縄米軍幹部「軍事的観点からは普天間のほうがいい」

 米軍普天間飛行場の辺野古移設計画をめぐり、政府は沖縄県の同意を得ないまま新たな区域の埋め立てに踏み切ろうとしている。だが、2006年に合意された今の計画を「軍事的有用性」「コスト」「環境負荷」の三つの観点から検証すると、日米両政府が推し進める巨大事業の合理性の乏しさが浮かび上がる。

 在沖縄米軍幹部は11月上旬、報道各社への説明会の中で、普天間飛行場辺野古移設を「最悪のシナリオ」と呼び、「純粋に軍事的な観点からはここ(普天間)にいたほうがいい」と語った。米軍幹部が指摘した辺野古の代替施設の問題点は、①滑走路の短さ②監視のための地理的な制約の2点だ。

 ①は普天間の滑走路は約27…

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この記事を書いた人
棚橋咲月
那覇総局
専門・関心分野
沖縄、平和
渡辺丘
国際報道部次長|中東アフリカ、核・平和
専門・関心分野
安全保障・外交、核・平和、基地、情報、テロ
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    木村司
    (朝日新聞社会部次長=沖縄)
    2023年12月18日7時58分 投稿
    【視点】

    辺野古移設は仕方がない――そう考えるひとであっても、ここで提示されたファクトに触れれば、この計画に疑問を持たざるを得ないのではないでしょうか。右も左も、沖縄も本土も。沖縄の米軍基地の重い負担を軽減しなければならない、という点は、昔も今も、立

    …続きを読む