佐賀県立大新設 三つの「?」

岡田将平
[PR]

 人口は減少するのに、大学をつくって大丈夫? 建設費は? 佐賀県が新設をめざす県立大について集中的に審議する県議会の特別委員会が12日開かれた。特別委での議論をふまえ、県立大をめぐる論点を整理する。

 県立大の設置は昨年12月の知事選で山口祥義知事が公約に掲げた。開会中の県議会には、カリキュラムや設置場所を具体的に検討する専門家チーム設置などのための予算800万円を盛り込んだ補正予算案を提出している。

 県立大新設をめざす背景には、県内に大学が2校しかなく、県内の若者の多くが県外の大学に進学している状況がある。文部科学省が公表している学校基本調査のデータによると、出身高校のある県の大学に行く「自県進学率」は2022年、佐賀県は16・7%。8割以上が県外に進学した。

 ただ、人口が減少する中、県立大は入学者を確保できるのか。

 文科省が7月に公表した大学入学者数の将来推計では、21年度の佐賀県の18歳人口は8412人だが、40年度には6114人になるとされた。大学進学者数も3455人から2670人に減る見通しだ。2大学がある県内でも、40年度には定員の81・3%しか充足できないと推計された。

 22年の大学進学率は全国平均の57%に対し、県内は42%と開きがあることから、中島健二・政策企画監は、「佐賀県はまだ伸びしろがある。少子化で子どもの数そのものは減るが、県立大設置などで進学率が上昇すれば、40年までの進学者は3400人程度を維持すると見込まれる」とした。

 県立大をめぐる「お金」も焦点だ。

 建設費について山口知事は8日の議会で「極力200億円の中で収まるように工夫したい」と述べた。既存の施設の活用も検討するという。県によると、最近の公立大の建設費は70億~110億円といい、資材価格高騰などの影響を反映し、「150億~200億円」と見込んでいるという。

 ただ、この日の特別委では「今の見込みでも甘い。慎重な議論が必要だと思う。最後の最後で凍結もあり得るんじゃないか」(県民ネットワーク・下田寛県議)とも指摘された。

 「費用対効果」も問われる。

 21年の「自県進学率」が22・2%と佐賀同様に低い三重県は、県立大設置を検討していたが今年10月、一見勝之知事が見送りを表明した。その要因の一つが、費用対効果だった。

 三重県では、県立大の建設・運営などの費用や大学生の県内就職率を考慮すると、1人を県内に定着させるための県の負担額は、県内企業のニーズが高い工学部の場合、約4千万から7千万円と試算された。県の有識者会議は10月にまとめた報告書で「費用対効果は高いと言いがたい」と指摘。三重県は、若者の県内定着は別の方策に注力した方が適当と判断した。

 佐賀県議会の特別委でも自民の藤木卓一郎県議が「ほかの手法を検討すべきではないか」と指摘した。

 ただ、三重県には大学がすでに七つあるのに対し、佐賀は二つ。中島政策企画監は、「数が圧倒的に違う」とする。

 佐賀でも費用対効果の算出を求められると、平尾健政策部長は「大学の設置に伴う教育の効果を経済価値に換算することは難しい」とする一方、「どういう出し方ができるのか考えてみたい」と検討する考えを示した。

 県立大を通し、県は地元で活躍できる若者の育成をめざす。経営情報学部で「経営分野」と「データサイエンス・情報分野」を学べるようにする。

 重点を置くのが県内の企業との連携。特別委では「企業をフィールドとする学習方法を実施したい」との説明があった。理論と実践の両方を身につけられるようにしたいという。

 また、教養科目の一つとして想定されるのが「佐賀学」。日野稔邦・政策総括監は、「実社会がどういうものか、わかっている学生を育ててほしい」という要望があるとして、「地元佐賀のことをしっかり理解することが大事」と狙いについて説明した。佐賀県の優位性などを学ぶ科目としたいという。

 卒業後の進路はどう想定しているのか。

 公立大学協会の公表資料によると、21年度の公立大の卒業生のうち、大学所在地と同じ都道府県や市で就職した学生は平均で43・4%。県は、その値を上回ることをめざすという。

 また、県によると、佐賀大では県内企業からの求人は今春2460人あったのに対し、同大の就職希望者は723人。ギャップがあることから、日野政策総括監は「県立大で育成する人材の需要があると思っている」と述べた。(岡田将平)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【本日23:59まで!】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら