世界的にまれなでっち上げに学ぶ 大本営発表は現代の「ワクチン」

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聞き手・後藤遼太
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 血まみれの子どもや、炎に包まれる戦車――。世界の戦場の刺激的な映像が、日本に暮らす私たちのもとに届きます。だが、こうした情報には時として、自国を有利にする意図をもって発信されるものも含まれます。虚実ない交ぜの情報に、どう向き合えばいいのでしょうか。

 近現代史研究家の辻田真佐憲さんは「ワクチン」があると語ります。そのカギが、82年前のきょうの出来事にありました。「戦争とプロパガンダ」について、太平洋戦争開戦の日に考えます。

    ◇

 ――1941年12月8日、早朝のラジオが「帝国陸海軍は本日8日未明西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入(い)れり」と告げました。真珠湾攻撃を国民に知らせた「大本営発表」とは、どんなものでしょうか。

 いまでは、「当局のデタラメな公式発表」の代名詞となってしまっていますね。

 大本営は原則として戦時のみ置かれる旧日本軍の最高司令部で、そこが出す戦況発表が大本営発表です。最高ランクの軍の公式発表です。

 真珠湾攻撃以降、私の集計では847回行われました。12月8日に始まったイメージがありますが開始は日中戦争中の37年。当初は「敵の首都南京を攻略」などと、あっさりした内容でした。

当初は誠実? 大本営発表の意外な歴史

 ――大本営発表というと戦果誇張や損害隠蔽(いんぺい)、美辞麗句のオンパレードという印象があります。

 撤退は「転進」。つまり、別の方向に進んでいるから撤退ではない。守備隊全滅は「玉砕」。追い詰められて負けたのはなく、勇猛果敢に戦って美しく砕け散ったのであると。美辞麗句で戦局の悪化を糊塗(こと)しようとしたと知られていますね。

 真珠湾攻撃の発表は3度修正されました。理由は意外なことに「正確を期すため」。戦果の下方修正もされ、最終的な内容もおおむね正確でした。当初は勝っているので隠蔽は不要で、むしろ信頼を集めたい。比較的誠実に仕事をしていました。

 ――大本営発表が誠実という…

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