広島拘置所の壁画、撤去へ 江戸の広島城下の絵、デジタル保存の方針

柳川迅
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 江戸時代の広島城下などが描かれた広島拘置所(広島市中区)の外壁が、来年度以降に取り壊されることとなった。市は壁画を撮影し、デジタル保存する方針だ。10月末に制作者の遺族や知人らで作る「広島拘置所壁画保存の会」が現地で初の見学会を開いた。

 壁画は同市出身の洋画家、入野忠芳さん(1939~2013)が制作した。広島城の築城400年の記念事業の一つで市から依頼され、1989年11月に約半年をかけ完成した。江戸時代の広島の情景を描いた絵巻「江山一覧図」などを原案に、入野さんがアレンジを加えて描いた。

 現在の壁画は縦約2メートル、横約200メートルで拘置所の北側と東側の壁を中心に描かれている。幕末に一度だけ行われたという祭り「砂持加勢(すなもちかせい)」の壁画は、キツネやツルなどの動物に扮した踊り手が、川底の掃除を応援する様子が描写されている。他にも竜やコイ、鯨などが登場する。

 制作から20年が経った2009年からは、入野さん自身が希望して修復作業に入った。コマ割りだったものを一続きの絵巻にするなど構図を見直し、亡くなる5カ月前の13年5月に修復を終えた。

 拘置所の建て替えに伴って外壁を撤去することは、昨秋に明らかになった。入野さんの妻、泰子さん(73)や知人らが保存の会を結成し、当初は市に現物保存を求めた。市も検討したが、多額の費用がかかることなどから困難とみている。保存の会も方針を変え、デジタル保存した上でサイズを縮小して陶板に焼き付け、広島城近くで展示することを要望している。

 10月29日に3回あった見学会には、市民ら約250人が参加した。

 市の元観光課長で、壁画の企画に深く関わった小林正典さん(79)がガイドを務めた。日本画の大家だった故・船田玉樹さんに「あの凸凹の壁面に線を引けるのは一人しかいない」と入野さんを推薦されたエピソードなどを紹介した。

 入野さんは5歳の時に路面電車との接触事故で左腕のひじから先を失い、その半年後に被爆した。中学から美術部で絵に打ち込んだ。武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)を卒業し、現代日本美術展大賞などを受賞。戦後の広島をテーマにした作品を多く描いた。

 泰子さんは「壁画は江戸の庶民の活気と平和な時代を表している、生命力を感じる絵だ。戦後広島が復興する生命力と重ね合わせて描いたのではないか」と話している。

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