文言変更に批判でも成立のLGBT理解増進法 看護学者が見る希望

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聞き手 編集委員・高橋純子

 差別や偏見から当事者を守ることが目的のはずが、逆に差別する側に配慮するような文言が盛り込まれ、厳しい批判を浴びながら成立した「LGBT理解増進法」。ただ、法制定を求めてロビー活動をしてきた団体代表の藤井ひろみさんは「最悪だけど希望はある」と言う。ん? 怒っていないんですか?

 ――「LGBT理解増進法」の立法過程で、この国の政治が少数派に対していかに無理解で不寛容かを思い知りました。

 「本当に苦しい経験をしました。ただ、いろんな反応があって、『この法律はダメだ』と言いながら、うれしそうな当事者もいます」

 ――うれしそう……?

 「国会というメインストリームの議論に乗ったことがやはり良かった。『性的指向』や、『性自認』とも訳せる『ジェンダーアイデンティティー』が議事録に残る。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、これまで『unspeakable(口に出せない)』な存在だったLGBTQが、権利主体として歴史に刻まれた。これは大きなことです」

 ――法成立に先立つ今年2月には、首相秘書官の「隣に住んでいるのも嫌」発言を受け、官邸で岸田文雄首相と面会されました。「リベラル」とされる首相への期待はありましたか。

 「期待はしていませんでした。尊敬する知識人や、一緒に働いていた人が、LGBTQをさらっと侮蔑する。そういう経験をこれまでずっとしてきましたから。しかもその蔑視が、ある種のたしなみというか……」

 ――たしなみ、ですか?

 「女性蔑視的な話題で盛り上がって、男同士の絆を確認するということがありますよね。それと似て、異性愛者の絆を確認するためのネタとして性的少数者は長くおとしめられてきたと思います。保守、リベラル関係なく、差別と偏見はあまねくある。だから、特定の党を支持する、頼みにするという発想はない。ロビー活動を、全党に等しく行ってきました」

出来上がった法律には「納得していない」と言う藤井さん。それでも、審議の過程で「痛快さ」を感じたといいます。どういうことでしょうか。インタビュー後半で語ってもらいました。

温かい人たちの中にもある差別と偏見

 ――そこは与党の有力議員に働きかけた方が手っ取り早いのでは? 自民党の稲田朋美元防衛相が推進派として注目されたのも、そういう文脈でしょう。

 「LGBTQの問題だけは一…

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    本田由紀
    (東京大学大学院教育学研究科教授)
    2023年11月29日7時58分 投稿
    【視点】

    力強い言葉が並ぶ。よい人でもさらっと差別する。強権発動で立派な法律をつくるのは手っ取り早いがプロセスを飛ばせば逆効果。法案審議の過程で反対派も「性的指向」「ジェンダーアイデンティティー」という言葉を何度も口にすること自体が痛快。当事者にとっ

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