第2回日本の性教育はなぜ遅れたのか 教育学者が感じる「最も深刻な問題」
性教育を問う(2)
ユネスコなどが提唱している「包括的性教育」が注目を集めています。「包括的性教育」とはどのような教育なのか。一方で、なぜ日本の性教育は遅れていると言われているのか。埼玉大の田代美江子教授(ジェンダー教育学)に話を聞きました。
――「包括的性教育」とはどういう教育ですか。
人権を基盤とした性の教育です。体の発達や生殖などの生物学的な面に加え、ジェンダー平等や性の多様性といった社会・文化的側面も含めて、幅広く性を学びます。子どもたちが、自らの健康や安全について考え、より良い人間関係を築き、幸せに生きるための選択ができる力を育むことを目指します。
――なぜ、性が人権の問題なのですか。
性の健康世界学会(WAS)の「性の権利宣言」(2014年改訂版)に、この点が明確に示されています。性は、心身の健康と幸福(ウェルビーイング)と切り離せません。宣言には、性の健康は、身体や精神、社会的に良好で、差別や暴力に遭わない状態で実現されるとあります。私たちが人間らしく健康で幸せに生きていくための権利が「性の権利」であり、それを確かなものにしていくのが包括的性教育なのです。
――日本では包括的性教育は行われていないのですか。
包括的性教育といえる内容の性教育は、ほとんど行われていません。保健分野で思春期の体の発達などを断片的に学ぶことはありますが、学習指導要領できちんと位置づけられておらず、系統的なカリキュラムになっていません。
――なぜ日本の性教育は遅れているのですか。
一つには、歴史的な背景があります。日本では、女性だけに「貞操」を求めるような性規範が根強くあり、敗戦直後から、当時の文部省社会教育局によって、「純潔教育」との名称で、性道徳を重視する教育が進められてきました。この教育の中で、「純潔」は男性にも求められていましたが、もともとは女性の性を抑圧する道徳規範です。学校教育においても、文部省は、この「純潔教育」という名称を「性教育」と同義だとする立場をとり続けてきました。
そして、最も深刻な問題は…
- 【視点】
この記事を読んで、03年に起きた七尾養護学校事件を改めて調べてみて、考えた。私自身、90年代に学校現場の取材をする中で、性教育の必要性、重要性を痛感し、実際に取り組んでいる東京都の区立小学校を知り、担当していたテレビ番組でリポートをしたこと
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