傷つきながら書け 最後の無頼、伊集院静さんを悼む 寄稿・桜木紫乃
最後の無頼派と呼ばれた男が逝った。本格的な雪が石狩空知地方の夜を真っ白に染めた日だった。
真夜中の電話で「追悼文を」という担当者の狼狽(ろうばい)した口ぶりから、現場の混乱が伝わりくる。どこからか「受けなさい」と、信じたくはないが追悼せねばならぬ人の声が聞こえる。先方が困っているぞ、と。早すぎる大雪は誰が降らせたのかと、窓の外を見た。
二十余年前の新人賞の選考会で、無頼は「この人はラブホテルに行き尽くしているか、一度も行ったことがないか、どちらかだ」と呟(つぶや)いたという。どちらも正しかった。担当者が実家の稼業がラブホテルらしいと伝えると、「最高ですね」と、喜んでくれたそうだ。
書くべきことを持った人間だと認識されたような気がして、とても嬉(うれ)しかった。
十年後に書いた一冊はその稼…
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- 【視点】
とても愛と尊敬に満ちた追悼文に感動している。 不躾な理由で申し訳ないが、自分が高校生の時だから今から40年前、通っていた京都の高校の近くでCMの撮影にいらしていて偶然見かけたのが、当時伊集院氏とご結婚されたばかりの夏目雅子さんだった。私は
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