司法書士に編集者、うどん職人… 見知らぬ人と出会う本棚

山田健悟

 町から書店が姿を消している。香川県第二の都市の丸亀市でも看板を下ろす店が増えた。

 そんな「出版不況」の中で、藤田一輝さん(32)は市中心部の住宅街に一軒の書店を立ち上げた。

 店名は「城南書店街」。複数の利用者が本棚を管理し、自分の売りたい本を並べて販売できるようにした「シェア型書店」だ。

 店に入ると、7畳ほどの部屋の壁一面を覆う本棚が目に入る。約30センチ四方に区切られたスペースがいくつもある本棚には、小さなポップと本が並ぶ。

 司法書士に編集者、大手通信企業の社員に図書館司書、うどん職人――。ポップには、そのスペースを管理している利用者の紹介文が書かれていた。現在53人の利用者がいて、自分の著作やオススメの一冊を思い思いに並べている。

 シェア型書店の魅力について、藤田さんは「書店がなければ、出会えなかったような人と出会える。本をきっかけに、新しいコミュニティーができる可能性があるんです」と語る。

 藤田さんの実家は、城南書店街から自転車で数分の距離にある。「地元をもっと盛り上げたい」と、高松高専(現・香川高専)に進学したが、より興味を持てた建築やデザインを学ぶために中退し、武蔵野美術大学に入った。

 いつか地元に戻り、仕事をしたい。そんな思いで在学中から、地域おこしに役立ちそうな取り組みやイベントの情報を収集し、積極的に参加するようになった。その中で出会ったのが、東京都国立市にあるコミュニティースペース「国立本店」だった。

 国立本店では本の販売はしていなかったが、利用者たちが個別のスペースに本を並べていて、本を通じて人と人が出会う姿を何度も見てきた。「丸亀にシェア型書店を作ろうと思ったきっかけです」と振り返る。

 卒業から4年後の2020年4月、大学や社会人として学んできたことを地元振興につなげるため、丸亀市にUターンした。

 はじめは、自宅の裏庭にあった物置を改装して瀬戸内海の商品を扱うセレクトショップを開業。地域のお客さんが増える中、藤田さんは「面白い人たちはいっぱいいるんだ」と感じるようになったという。

 そんな面白い人たちが、職業や好みの枠を超えて集まれる場所を作りたい、との思いから生まれたのが、「城南書店街」だった。

 23年5月、物件のリフォーム代などを募るクラウドファンディングを開始。約2カ月で132人から160万円を超える支援があり、同年8月に開業した。

 時には利用者自らが店番をし、買い物客の相手をすることもある。藤田さんは「ここに来れば、出会ったことがないような人としゃべれる。本が好きではない人でも、そんな思いで来られる書店にしていきたいと思います」と話した。

     ◇

 〈城南書店街〉香川県丸亀市山北町434の1。営業は金・土・日曜の午後1~5時。本棚で本を販売できる利用者「ショーテンシュ」も募集中。月額2500円から。12月2日と17日の午前9~11時には説明会を店で開く予定。最新情報や問い合わせはインスタグラム(@jonansyotengai_)から…

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この記事を書いた人
山田健悟
高松総局|香川県政担当
専門・関心分野
地方政治、行政、ジャーナリズム