運休の美祢線、どうするか 篠田洋司・山口県美祢市長に聞く

聞き手・向井光真
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 JR美祢線が大雨による災害で運休し、4カ月が経つ。JR西日本は「復旧」についての判断を示さず、赤字が続く路線の存廃論議に向かう可能性がある。美祢市の篠田洋司市長に、地元の思いや今後の対応を聞いた。

 ――美祢線の運休による市民生活への影響は

 一番影響を受けているのは通学利用。厚狭駅に向かう代行バスが途中で満員になり、途中の厚保駅で学生が乗れない日があった。厚狭―長門間は美祢線で約1時間のところ、代行バスは20分余計にかかる。バスにはトイレがなく、不便だという声を聞く。沿線住民には線路に雑草や雑木がそのまま放置されていることへの懸念もある。

 ――被災前の利用状況をどう見るか

 沿線人口の減少などもあり、利用者数は減っているが、要因として便数が減ったことがあるかもしれず、分析が必要だ。観光利用がまだ増える可能性もある。

 ――市はあくまで美祢線の復旧を目指すのか

 鉄道としての復旧を目指す。自治体は公共インフラをたくさん抱えているが、例えば市道の利用者が1人でも2人でもいれば、(道が被災した場合に)復旧しないわけがない。鉄道も公共インフラで、それと一緒だと考えている。

 ――バスやBRT(バス高速輸送システム)など代替の交通手段ではだめなのか

 美祢線は瀬戸内海側から日本海側を最短距離で結ぶ市民利用に不可欠な路線で、歴史の詰まった「マイレール」。(主要な駅と観光地などをつなぐ)2次交通としても非常に重要だ。鉄道としてのネットワークが必要ととらえている。

 今後、運転手不足が顕在化する中で将来にわたってバス運行が確保できるのか、との懸念もある。

 ――美祢線の廃止論議に向かうことが沿線住民の間で危ぶまれている

 1日当たりの乗車人員と赤字額は、県内の他の路線と比べて最も悪い状況ではない。赤字路線すべてについて存廃が議論されるなら納得できるが、美祢線だけクローズアップされることの違和感を住民は持っている。

 ローカル線を抱える全国の首長から「災害を機に廃線に持ち込まれるという前例にならないように頑張ってほしい」という声を多く頂いている。JRに復旧を強く要望したい。

 ――JRから復旧の費用負担を求められた場合、どう対応するのか

 JRはまだ復旧費用を算出していないし、負担の要望もない。全く白紙の状態だが、鉄道をネットワークとしてとらえるのならば国に支援を求めるべきだろう。

 ――「JR美祢線利用促進協議会」で立ち上がったワーキンググループの役割は

 一番は今までの利用促進策の検証と新たな対策の検討だが、「その他いろんな議論を」とも言った。住民ニーズに合ったダイヤになっているか、などいろんな議論があると思う。

 ――JRは美祢線のあり方や公共交通としての持続可能性をWGで議論したい意向のようだ

 WGでできることとできないことがあるが、それぞれの立場があり、検証の中でのいろんな話を否定するものではない。JRはパートナーであり、敵対する気はない。事業者が腰を上げてくれないと前へ進まない。

 ――地方におけるローカル線の意義は

 山口県市長会や中国市長会、全国市長会で一貫して申し上げているのは、鉄道は全国をつなぐネットワークだということ。それが分断されると自ら移動手段を持たない弱者が置き去りにされる。誰一人取り残さないということが大きなテーマの時代。弱い立場の人をいかに守っていくかを大切にしたい。(聞き手・向井光真)

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 1963年生まれ。美祢市出身。市職員、副市長などを経て、2020年に市長に就任。

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