「復興は道なかば」の無限ループ ガザ地区への人道支援が抱える鬱屈

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ジャパン・プラットフォーム(JPF)モニタリング評価専門家・松本直美
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 イスラエル・パレスチナの情勢が緊迫の度を加えている。パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの奇襲攻撃に対し、イスラエルはガザ地区を陸・海・空から「完全包囲」、繰り返される空爆や、徐々に拡大する地上攻撃によって住民の生命が脅かされている。

 テレビの画面に、建物が破壊されて瓦礫(がれき)だけになったガザ地区の繁華街が映る。「空爆が起こってもどこにも逃れられない。耳をふさぐ孫たちを、ただ大丈夫と言って、抱きしめてあげるだけしかできない」。6月にインタビューした日本のNGOの現地スタッフであるサハルさんの言葉を思い出し、胸が震えた。

 今回の衝突の端緒は、ハマスがイスラエルに越境し、多くの民間人を殺害、人質を連れ去るという前例のない事態だ。イスラエルとパレスチナの衝突と報復を繰り返す歴史をにわか仕込みで学んだ私でも、イスラエルのガザ地区への攻撃が激しいものになることは容易に想像できた。

 世界中で頻発する人道危機への日本からの支援の透明性を高めるため、支援の成果の評価をしている私は、様々な地に支援を届ける日本のNGOスタッフや、支援を受けた人々にインタビューしている。ガザ地区で聞いた人びとの声は、日本に戻ってからも私の心に重石(おもし)がおかれたような息苦しさを残していた。

 空爆の被害から立ち直っても、また空爆に巻き込まれる。だが、封鎖のためにガザ地区から逃れられない。人びとの苦しみは現在進行形で、自然災害とも違って解決の糸口も見えない鬱屈(うっくつ)した状況にある。それでも、家族を思い、懸命に生きている。その様子を動画に収めて、資金不足によるガザ支援停止(この点については後述)に一石を投じたいと思っていた。

 戦闘の責任がどちら側にあるのかという議論はここではおく。ガザ地区の住民に食料、医薬品などの支援物資を届けるには、双方の攻撃の停止とガザ地区へのアクセスが不可欠だ。日本を含む各国のリーダーが、イスラエルとハマスの双方に誘拐を含む武力攻撃の即時停止とガザ地区の危機的状況の改善を求めているのを歓迎し、合意の結実を求め続けたい。

酷い人道状況が常態化

 長さ50キロ、幅5~8キロの細長い356平方キロメートルほどの土地に220万人がひしめくガザ地区は、世界有数の人口密集地だ。イスラエルによって壁で囲まれ、海も閉鎖され、「天井のない監獄」と言われる。15年にわたる境界線の封鎖による人と物流への制限は、武力衝突からの復興を阻み、住民への基礎的なサービスの質・量の劣化を招いている。

 ここでは、国連や欧米のNGOによる食料配布や教育への支援がライフラインの一部だ。例えば、パレスチナ自治政府が運営する病院は69あるが、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)も22の初期診療の病院を運営、国際NGOや現地の市民団体が運営する80の病院も医療サービスを提供している。ただ、こうした人道支援は慢性的な予算不足に悩まされてきた。

 くわえて、イスラエル軍によるガザ地区空爆が散発的に起こり、激しい軍事衝突もおおよそ2年ごとに繰り返されてきた。支援をしても、資金不足と繰り返される破壊のために、復興は道なかばというサイクルに陥り、酷(ひど)い人道状況が常態化しているのが実情だ。

 ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、人道危機が起きた際、NGO、個人、企業、政府が対等なパートナーシップのもと、日本の国際協力NGOが支援を現地に届けられるよう、資金を分配する仕組みだ。2009年からパレスチナ・ガザ地区で3期15年にわたる緊急人道支援を実施。現在は「パレスチナ子どものキャンペーン」と「ピースウィンズ・ジャパン」の2団体を通じて支援している。

 武力衝突を受け、両団体は活動を一時停止。JPFは情報を収集していたが、10月20日、ガザ地区の民間人を対象とした緊急人道支援のために出動を決定。同地区での支援実績のある加盟NGOも状況を見つつ、支援開始のために待機している。

特有の困難とは

 ガザに対する人道支援には、他とは異なる困難がある。

寄稿の後半は、人の出入りがままならないガザ地区で住民自らの回復力を育む支援の模索などをつづります。支援を受けた現地の声へのリンクも末尾で紹介しています。

 まずもってガザ地区に入るの…

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