袴田さんの「拘禁反応」とは 乱れていく手紙、医師「重篤で珍しい」
静岡地裁で27日、袴田巌さん(87)の再審公判が始まった。約半世紀にわたって無罪を訴えてきた巌さんの姿は法廷になく、姉の秀子さん(90)が代わりに出廷した。巌さんの出廷免除を認めた理由について、国井恒志裁判長は初公判で「(巌さんは)拘禁反応と診断された。自己の置かれている立場が理解できず、黙秘権を理解することも甚だ困難であると判断した」と説明した。
拘禁反応とは何なのか。
拘禁中や釈放後に袴田さんを診察し、拘禁反応に詳しい精神科医の中島直医師(58)=多摩あおば病院院長=によると、拘置所や刑務所など、刑事施設に拘禁されて生じる精神症状のことだ。
多くは頭痛やめまい、吐き気など。中には、被害妄想や、無罪であるという妄想、恩赦などで釈放されると確信する赦免妄想などが生じることもある。「ほとんどは自然に軽快する」という。
巌さんは最高裁で死刑が確定した1980年以降、「電気出すやつがいる」「かゆみの電波や痛みの電波を出している」「毒殺される」と訴えるようになった。
秀子さんに送る手紙にも同様の表現が散見されるようになった。
《対悪魔戦も新局面を迎えているこの頃(ごろ)です。さて、従来最大の武器と思われていた暖電波や痒(かゆ)みの電波が後退した》
(1988年7月、姉の秀子さん宛て)
中島医師は弁護団の依頼で2008年、巌さんが拘禁反応に罹患(りかん)しているとする意見書を書いた。本人と拘置所で面会して問診し、秀子さんにも話を聞くなどした。
当時は、巌さんが書いた多数の手紙も参考にした。手紙だけで拘禁反応の有無は判断はできないが、症状の経過が見えてきたという。
「『悪魔の手先の電波』による『攻撃』を受けている、というのは事実ではないとは思いますが、伝えようとしている意味はわかる。ですが、やがて、そうした意味すら読み取れない文章になっていった」
中島医師は巌さんの拘禁反応について「重篤で、慢性的に続いており、非常に珍しい」。慢性化した拘禁反応は、速やかに回復しないと考えているという。