ジャニーズ問題が見逃された理由、欠如していた頭と心 宇野重規さん

有料記事

[PR]

論壇時評 政治学者・宇野重規

 安易に論じられないテーマである。なぜなら、わたしたちはそのことをすでに十分に「知って」いたからだ。「知って」いたのに、誰もそれを公然と語ることも、批判することもなかった。それが今になって急に、「問題にして良し!」の号令がかかったように声高に論じ始める。そのこと自体がまさに問題の核心であると思えてならない。旧ジャニーズ事務所における所属タレントへの性加害事件のことである。

 「世界」11月号では、かつて自らジャニーズ事務所に所属し、故ジャニー喜多川氏による性加害を訴えてきた平本淳也、俳優として芸能人の労働災害に取り組む森崎めぐみ、そして芸能人の権利を守る活動をしてきた弁護士の佐藤大和による鼎談(ていだん)が掲載されている(〈1〉)。これを読むと、この事件が特別ではなく、業界において広く人権侵害が横行してきたことがわかる。性加害の時効撤廃、芸能業界に特化した法律の必要性、相談窓口や申告窓口の整備など、重要な指摘もなされている。何より、英BBCのドキュメンタリーや国連人権理事会の作業部会による聞き取りまで、「三五年間は、話を聞いてもらえなかった。話すことも許されなかった」という平本の言葉が重い。

雑誌やネットで発表される論考を紹介しながら時事問題を論じる「論壇時評」。10月は「ジャニーズ性加害問題」がテーマです。日韓の芸能界比較や、独立トラブルに見舞われた俳優の例、朝日新聞をはじめとするメディアの姿勢などに触れながら、この問題が公然と語られるようになるまでに時間がかかった理由を考えます。

オンラインイベント「宇野重規のロンダン! ググったら見つかる? 公論はどこに」(配信中)

若者の政治参加を促す団体「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんをゲストに、宇野さんが「論」と社会の関わりについて話します。

 エコノミストの真壁昭夫は…

この記事は有料記事です。残り2464文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    小林恭子
    (在英ジャーナリスト)
    2023年10月27日17時51分 投稿
    【視点】

    雑誌やネットで発表される論考を紹介しながら時事問題を論じる「論壇時評」、大変興味深く拝読いたしました。 いろいろな視点が紹介されていますが、ジャニーズ事務所問題で、性加害を「なぜ気づかなかったのか」ということが一つの論点として注目され

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    西岡研介
    (ノンフィクションライター)
    2023年10月29日17時59分 投稿
    【視点】

    この問題をようやく、マスメディアが取り上げ、一般に広く知られるようになった時点で、私の個人的な関心は、「なぜ、これまで報じられなかったのか」ではなく、以前から『週刊文春』や、私が所属していた『噂の眞相』など一部の雑誌が報じていたのに、「なぜ

    …続きを読む