なぜか、はやらない 見た目も味も栄養も良く、育てやすいのに…

東野真和
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 鮮やかに赤く、味は濃厚。体にいい成分が多く含まれている。しかも、育てやすい。そんなトマトが、なぜか普及しない。岩手県で20世紀の終わりから改良を重ねてできた品種「すずこま」だ。それでも特産化を目指し、加工品をPRするなど、生産拡大を模索している人たちがいる。

 9月12日、盛岡市の県産品販売店「らら・いわて」で、釜石市の会社が商品化した「すずこまジェラート」の販売会が開かれた。

 生みの親の由比進・岩手大農学部教授もかけつけた。試食した客は「トマトのジェラートは初めて食べたが、すっきりして食べやすいね」と高評価だった。

 すずこまは、由比さんが当時在籍していた盛岡市の農林水産省野菜・茶業試験場(現独立行政法人・農研機構東北農業研究センター)が全国農業協同組合連合会と共同で2000年から品種改良を重ね、11年に発表した調理用トマトだ。

 ガン予防に効果があるとされるリコピンを多く含み、加熱調理しても赤い色が鮮やかなまま。芽かきが不要だという特徴もある。小ぶりだが、密集してなり、ヘタが取れて木に残るので、収穫も簡単だ。

 なのに、十数年たっても、あまり普及しない。

 由比教授によると、熱心に栽培しているのは全国で数カ所だ。代表的なのは、「アイランドルビー」の名で特産化を進めている静岡県伊東市熱海市だが、年間数トンと多くはない。岩手県でも奥州市や雫石町で栽培しているが、生産量は静岡の両市を下回る。

 なぜ、はやらないのか。

 「第一の理由は食文化」と由比教授は言う。農研機構によると、すずこまは煮炊きして食べるほうがおいしいが、日本ではトマトは生食が主。そのため、日本の1人あたりのトマト消費量は世界平均の半分ほどだと説明する。

 だから、販路が広がらない。生産農家は産直店や料理店、地元の加工品業者などの出荷先を探さねばならない。加工用のトマトは安い輸入品が出回っており、農業関係者は「大手業者と加工品の材料として契約すると、1キロ数十円にしかならず、もうけが少ない」と言う。

 そんな中、釜石市がすずこまに目をつけ、2年前から試験栽培を始めている。

 中山間地が多く耕地が少ないうえ、東日本大震災で被災して離農や高齢化に拍車がかかる。農業産出額は20年に1億6千万円まで落ち込み、県内自治体で最下位に。コメや野菜は大規模な産地に太刀打ちできず、あまり栽培されていない品種として選ばれた。

 昨年の出荷は250キロだったが、今年は800キロを目標にし、だんだん増やす計画を立てている。自宅のビニールハウス2棟で120本を栽培している佐々木かよさん(72)は「木が上に伸びないので高齢者でも楽に栽培できる」と喜ぶ。

 ジェラートのほかにも、すずこまを使った商品は開発中だ。地域おこし協力隊員の三科宏輔さん(27)は「素材の味を生かしたい」と、自分で育てたすずこまで作ったジュース「いとまとドリンク」をユーチューブで発売。第1弾は売り切れ、11月に第2弾を売り出す。

 市水産農林課の鈴木真由美主任(38)は「農家が『よし作ろう』と思えるほど売れる特産品ができれば」と期待している。東野真和

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