住民2割が外国人の群馬県大泉町 「将来の日本の姿」で共生探る町長

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聞き手・岡田玄

 人口のほぼ2割が外国籍の群馬県大泉町。「この町の姿は将来の日本の姿だ」という村山俊明町長に、共生に向けた課題などを聞いた。

 1962年生まれ。群馬県大泉町議会議員に97年に初当選し約16年務める。13年に町長に就任し、現在3期目。趣味は、日系ブラジル人が経営するスポーツジムで筋トレ。

 ――大泉町では1990年代に外国籍の住民が増えました。3世までの日系人とその配偶者らが定住し働けるようになった、90年の入管法改正がきっかけでした。

 「大泉町や周辺地域は製造業で栄えてきました。戦前は戦闘機などを生産していた中島飛行機の工場がありました。現在も自動車や電機メーカーなどの様々な工場があります。80年代から人手不足に直面し、外国籍の人たちが徐々に働くようになりました。当初はバングラデシュやイランなどの出身者が多かった。次第にブラジルやペルーなどの日系人が増え始め、90年の入管法改正で急増しました。今では外国籍住民の半数をブラジルが占めます。国別では計48カ国の住民がいます」

 「この33年間で、町の担当課の名前が何度も変わりました。企画調整課内の国際交流係として始まったものが、国際交流課となり、国際政策課、国際協働課を経て、現在は多文化協働課です。単なる名称変更ではなく、自治体が向き合うべきことが変わったのです」

 「90年ごろは外国籍のほとんどが日系人で、数年出稼ぎしたら帰国するつもりで来ていた。職場と住居の往復でほかの住民との接触がほとんどなく、交流が必要だと考えられていました。今では町内に10年以上暮らす外国籍の人も非常に多く、大泉町に家を購入する人も増えています。外国籍の方々も一緒に町をつくっていく協働する人です」

労働力ではなく人間

 ――外国籍の住民と以前からの住民との共生は実現できましたか。

 「外から見える表の顔は、多文化共生の先進的な取り組みをしている町かもしれません。しかし、まだ問題も多いのが実態です」

 「政府や企業は労働力がほしいのでしょう。しかし、実際に来るのは人間です。経済を回すための労働力と、生活者は全然違います。そのことを政府は安易に考えているのかもしれません」

 「差別などの問題も考えなければいけない。町ではあらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例を17年に制定し、全国の町村で初めてとなるパートナーシップ制度も19年に導入しました。人権や多様性を重視するのは、外国籍住民が多いという特色があるからです」

 「町民からはいろいろな意見がありました。『外国人ばかり住みやすくするのか』『もっと外国人を呼び寄せるのか』といったものもあった。労働人口が減るなか将来を見据えると、人権と多様性を大切にすることが町に住みたい理由になる。結局、日本人を含めた町民全体のためになるはずです」

 ――外国籍住民に対する否定的な意見が今もあるんですね。

 「自動車窃盗や車上荒らしが問題になった時期もあり、以前のイメージを持ち続けている人も少なくないと思います。日系人が増え始めた90年代からゴミ出しのマナーは問題になり、今でも町には苦情が届きます。分別しない、指定日以外に出すといったものです。休みの日に大音量で音楽をかけながらバーベキューをやるため、騒音や煙の苦情も以前は多かった。対策としてブラジルの公用語のポルトガル語や、ペルーの公用語のスペイン語で啓発活動を始めました。今では7カ国語で実施しています」

 「定住化が進むと、ずっと住むつもりの方は清掃活動に参加するなど協力的になって、マナーを守るようになります。でも、新しく来た国の人たちには理解できるまで、改めて伝えなければいけません。伝えようとすれば、多言語で対応することになります。当初はポルトガル語やスペイン語だけでよかったのですが、次々と増えていく。行政としては、すべての住民に平等にサービスを提供する義務があります。しかし、現実問題として少数の言語にまで十分に対応することは、むずかしいです」

 ――多言語対応の限界ですね。

英語を町の「共通語」に

 「はい。技能実習制度は日本…

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    南野森
    (憲法学者・九州大学法学部教授)
    2023年9月12日11時32分 投稿
    【視点】

    多様性を認める社会は、どんな人にとっても住みやすい社会のはずです。が、現実にはなかなかそう簡単にうまくはいかないでしょう。群馬県大泉町の村山俊明町長、地に足のついた現実的なやり方で町をうまく運営しておられることがよくわかる、素晴らしいインタ

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