ハンディある子を美容院へ 体験会を成功させた美容師とPTAの工夫

有料記事

富永鈴香

 知的障害がある子どもや手足が不自由な子どもは、美容院や理髪店で髪を切った経験がほとんどない。迷惑をかけるのではないかと保護者がためらったり、子ども自身の感覚が過敏で、はさみやバリカンの音を怖がったりするからだ。

 それでも将来は、地域の美容院や理髪店に行けるように、子どもと保護者の背中を押したい。そんな取り組みが、茨城県つくば市の県立つくば特別支援学校であった。

 8月8日、同校のPTAが企画した「ボランティア散髪」に地元の美容師5人がやってきた。小学部1年から高等部2年までの17人が各30分ずつ散髪をしてもらった。

車椅子の少女、初めてのプロの散髪で

 「後ろは、どうしようか?」。車椅子に座っている小学部2年小島(おじま)暁(あき)さん(7)の髪を切りながら、美容師が尋ねた。暁さんは下半身が動かない。

 車椅子に当たる後頭部の髪が、ぺしゃんこになって癖がついている。

 「短くしてください。夏なので、汗がすごいんです」。隣にいた母親の育子さん(45)が言った。

 暁さんの髪は、いつも育子さんが切ってきた。「美容院には入りづらくて」。入り口に段差があると、車椅子では一苦労だ。美容院の椅子も、身体に合わせたものではないため、子どもの負担が大きい。

 「かわいくなった」

 散髪後、暁さんは大きな鏡の前でさっぱりした自分を見ながら、満足げな表情を浮かべた。

 この日散髪を担当した美容師の小見山京子さんは、高齢者や感覚が過敏な子どもなど、美容院に行きづらい人を対象に、訪問サービスをしている。

 育子さんは「プロは違いますね。このまま一生私が切らないといけないのかなと思っていました。訪問サービスも考えてみようかな」と心が動いた。

 小学部5年の相馬湊(みなと)さん(10)は、時折キョロキョロと周りを見渡しては、目が合った人に屈託のない笑顔をみせる。アンジェルマン症候群という難病で、重い知的障害がある。

 今まで母親の千晶(ちあき)さん(39)が髪を切ってきた。しかし、散髪は簡単ではない。4カ月に1回、風呂場で嫌がる湊さんの上に馬乗りになって、バリカンで髪を刈る。「動くので危ないから押さえるけれど、嫌がっているのがかわいそうで。お店にも連れていけないし、(ボランティア散髪に)ずっと参加したかった」

 担当美容師は、つくば市のヘアサロン「タンデム」の山口利博さん。

山口さんは、保護者も驚く工夫で髪を切っていきました。記事後半では、美容師たちの多彩な工夫のほか、「ボランティア散髪」を企画したPTAの思いも紹介します。大事にしたのは「福祉の持続可能性」でした。

 椅子に座った湊さんは、手元…

この記事は有料記事です。残り1267文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
富永鈴香
ネットワーク報道本部
専門・関心分野
人権問題、政治参加、表現の自由
  • commentatorHeader
    田中宝紀
    (NPO法人青少年自立援助センター)
    2023年8月29日15時0分 投稿
    【視点】

    子どもたちの笑顔、印象的でした。ボランティアで参加した美容師の方々の心にも触れることができ、読みながらうれしい気持ちになる記事でした。 気になったのは「福祉の持続可能性」という言葉。基本的には福祉に関わることに「メリット」を見出すのは、関わ

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    蟹江憲史
    (慶應義塾大学大学院教授)
    2023年8月30日8時16分 投稿
    【視点】

    最後にある「一方的に支援していただくのは持続可能ではない。」という言葉がとても重要だと思います。この記事にあるような取り組みは広がることで、皆が楽しみ多様性のある社会ができますが、身を切って行う活動では続きません。スポンサーがいたり、きちん

    …続きを読む