現場へ! もっと地震に強く①
昨年末から2度、記者あてに同じ差出人から手紙が届いた。
「私は阪神大震災にて自宅が倒壊し大被害を受け、何とか地震被害が無くならないかと取り組んでいるものです」
手紙には、建物の種類ごとの耐震化の進み具合の資料が添えられ、国による補助対象の拡大の必要性を訴えていた。
「補助の無い多数の施設は自主性に任されており、遅々として進んでいません」「地震に対して最も効果のある耐震化が、本気で取り組まれていない」
差出人は兵庫県西宮市の稲毛政信さん(77)。1級建築士の資格を持つ元神戸市職員で、住宅の耐震診断や設計を手がけ、講演などを通じて普及に携わってきた。本人を訪ねると、「耐震改修の完成」が視野に入ってきたのに、その見通しが立たないもどかしさを口にした。
「もう少し頑張れば、大地震でも建物にいて大丈夫ですよ、と言えるようになるのに」
建物の耐震化が社会課題になったのは、6434人の死者を出した1995年の阪神大震災がきっかけだ。81年以前の旧耐震基準で建った建物の倒壊が相次ぎ、圧死が8割を占めた。
阪神大震災の教訓「耐震性の有無で全然違う」
稲毛さんの長男(当時高校2年生)も、その一人だった。戦後すぐに建った木造住宅。1階南側の壁が少なく、2階が崩れ落ちて屋根の下敷きになった。近所の人と柱や梁(はり)をどかし、病院に運んだものの助からなかった。
隣の新しい住宅は無事で、近所で被害が出たのは古い住宅ばかりだった。「耐震性のある家とない家では全然違う。建築を学びながら、こんなひどいことになるとは思っていなかった」
28年が経ち、学校はほぼ100%になるなど、公共施設や大型施設の耐震化は進んできた。補助制度のある住宅は、2008年の79%が18年には87%に。一方、店舗やホテル、事務所など中小の民間建物、寺社などの伝統的建築物は取り残されているという。
早朝の発生だった阪神大震災は住宅の被害が注目された。しかし、日中に地震が起きれば職場や訪問先で被害に遭うおそれがある。命が助かっても、建物が使えなければ仕事を続けられない。地域の景観や観光にとって大切な建物も失われる。
これらも補助対象にし、不特定多数が使う建物は特に手厚くして10年以内の「完成」を目指すべきだと稲毛さんは言う。
何らかの指定がある伝統的建築物とともに7、8割の高い補助率に。そのほかの建物も4、5割の補助を出し、地域の危険度に応じて上乗せする仕組みにしてはどうかというのが、稲毛さんが寄せた提案だ。教育施設は、手厚い補助が耐震化を後押しした。
「耐震化で被害が大きく減ることは明らかで、復興費用に比べれば費用も少ない。そもそも基準が低かったのだから、国は責任を持って取り組む必要があります」
住宅の耐震改修「安くできる方法はある」
耐震化率が上がったとはいえ…