佐々木英輔

編集委員
専門・関心分野災害、環境、リスク、自然と社会

現在の仕事・担当

災害、環境、原発などの分野をおもに取材しています。
防災・減災をめぐる特集「災害大国」や、夕刊エコ&サイエンス面のコラム「e潮流」を担当。東京電力福島第一原発事故の教訓と課題をめぐる取材に携わっています。

バックグラウンド

1994年に朝日新聞社に入社し、これまでに松山、大津、大阪、東京、福岡で勤務。災害、環境、原発のほか、医療、健康、食の安全など、科学や技術が関係する様々な分野の取材にかかわってきました。
自然の成り立ちやふるまい、その人間や社会とのかかわり、科学的知見やリスクをめぐる情報の扱い方に関心を持っています。災害の被害を小さくとどめ、豊かな自然や健全な環境を引き継ぎ、誰もが穏やかに暮らしていけるような持続可能な社会をいかにつくっていけるか。考えるための手掛かりを提供できればと思っています。

仕事で大切にしていること

科学的な知見やリスク評価、技術の正負の側面を伝える機会が多くあります。はっきりしていることと未解明なこと、リスクの程度や不確実性、考えられる最悪の事態、対策や代替策の選択肢など、事実関係を整理して丁寧に報じるように心がけています。
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故は重い教訓です。

タイムライン

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エネルギー審議に足りない視点 脱炭素で求められる新たな「E」とは

 国のエネルギー政策の審議会では、「S+3E」という言葉がよく登場する。  5月に経済産業省の審議会で始まったエネルギー基本計画改定の議論でも、「S+3Eが根幹」「S+3Eのバランスが重要」といった発言が聞かれる。以前は「3E+S」、さらに前は「3E」だった。  三つのEは、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を指す。2002年にエネルギー政策基本法が施行されて以降、政策の柱になってきた。  Sは安全性(Safety)。東京電力福島第一原発事故後に加わり、3年前の改定議論の終盤から前に置くようになった。「安全が大前提」を強調した形だ。  しかし、それだけでは抜け落ちる論点があるのではないか。そんな問題意識から4年前に始まった研究プロジェクトが今年、報告書をまとめ、新たな原則として「S+4E」を提言した。  四つ目のEは「公平・公正」(Equity&Justice)。「今までの審議は経済面に偏りがちだった。これを加えて参照するようにすれば、多様な議論を促せる可能性がある」と研究代表者の江守正多・東京大教授は言う。  エネルギーの転換は、脱炭素のかぎをにぎる。気候科学を専門にしてきた江守さんは、原発事故後、エネルギー関係の審議をネット中継で見るようになった。経済や技術の観点での議論が多いのに、倫理的な観点は少ないと感じ、「研究として追究したい」と思うようになったという。  研究プロジェクトは脱炭素化技術の普及をめぐる倫理的、社会的な課題を探るのが目的で、個別の技術の是非には踏み込まない。経産省や環境省の審議会の議事録を機械学習も使って分析し、脱炭素化が社会に及ぼす影響について、幅広い分野で活躍する識者へのヒアリングや討論を重ねた。  この結果、従来の議論は省庁にかかわらず経済面に偏っていることがはっきりした。一方で、地域コミュニティーや地方自治への影響、コストや受益の分配といった論点は限られていた。  足りない領域をシンプルにまとめると、広い意味での「公平・公正」に行き着いたという。  脱炭素化をめぐっては、再生可能エネルギーや原子力、代替燃料や二酸化炭素の貯留など、様々な技術が取りざたされるが、それぞれ正負の影響をもたらす側面がある。  例えば、近年は大規模な太陽光発電による自然破壊や災害誘発のおそれが各地で問題化している。原発は長年、事故のリスクや立地地域の分断、消費地との間の公平性が論争になってきた。「核のごみ」処分は気候変動対策と同様、将来世代の負担が論点になる。  研究プロジェクトでは、電気自動車の普及や乗用車の利用減で生じる影響も議論した。自動車産業や雇用への影響、充電の制約と移動の自由との兼ね合い、障害者らマイノリティーへの影響、都市と地方の格差など、多岐にわたる論点が浮かび上がった。  社会的な課題を置き去りにしたままだと、いずれ行き詰まってしまいかねない。多くの人が納得して受け入れられるような最善の選択をするためには、多角的な議論と丁寧な手順が欠かせない。 ■議論の枠組み、見直しを  審議の経済偏重は、記者の実感とも合う。今回のエネルギー基本計画改定の審議も経済系の委員が多く、経済成長や国益を唱える声、業界の利害を代表する声が目立つ印象だ。若者団体にヒアリングする機会を設けたのは前進といえるものの、委員の意見表明会のような議事進行は相変わらずで、互いに議論を交わす場面は限られる。  「安全が大前提」も呪文のように唱えられるばかりで、安全の中身や、原発事故がもたらした被害の実態に踏み込んだ発言は乏しい。今回浮上したAI(人工知能)による電力需要増の論点にしても、需要増がどこまで許されるのか、しわ寄せをどう考えるのかといった、引いた視点の議論がもっとあっていいはずだ。  そもそも経済と産業を主に担当する省の審議会に、多様な議論を期待すること自体、無理があるのかもしれない。委員構成やテーマ設定の見直しはもちろんのこと、別の議論の場を設けるなど枠組みそのものから見直してはどうだろう。

エネルギー審議に足りない視点 脱炭素で求められる新たな「E」とは

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ギリギリを攻める原電の「賭け」、安全第一と相いれず リスク直視を

 原子力規制委員会は13日、日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)の再稼働に向けた申請を不許可とした。規制委の発足後初めてのことで、直下に活断層があることを「否定できない」ことが理由だった。  活断層の可能性を否定できないなら、活断層として扱う。これは、東日本大震災の前から、原発審査のルールになってきた。  原発は、事故を起こせば周辺にも大きな被害をもたらす。疑わしいものは考慮に入れ、最悪の事態を防ぐことは、原発の安全を守る上で、欠かせない考え方だ。  今回の規制委の判断は、この原則に従って原電の申請内容を審査した結果に過ぎない。原電は、活断層でないとの主張を裏付けるだけの明確な証拠を示すことができなかった。  一部に「(証明しようがない)悪魔の証明を求めている」との規制委批判があるが、筋違いだ。  審査会合は公開され、資料や録画は誰でも見ることができる。その経過をみれば、原電が根拠とした地層の観察結果や試料は様々な解釈が可能で、根拠になり得ていないことがわかる。他の原発では、活断層ではないとの証明が認められたケースもある。  原電は、なお追加調査を続けるとして、再稼働を目指す方針を崩していない。だが、直下の断層がずれることなど、原発の設計では想定されていない。  もし、活断層ではないとの自説が誤りだったなら、どうするのか。あやふやな根拠のまま、原発を動かそうとする姿勢は、原電が掲げる「安全第一を最優先に」のポリシーとも相いれないのではないか。 ■原子炉の目と鼻の先に活断層  そもそも、敦賀原発は国内の原発のなかでも特殊な場所にある。  敷地内には、原電も認める活断層、浦底断層が通っている。国の地震調査研究推進本部は2004年の時点で、マグニチュード7.2程度の地震と、2メートル程度の横ずれを起こすと見積もっている。その後の研究では、さらに規模の大きな地震を起こす可能性も指摘された。  これが、原子炉の目と鼻の先、200メートルほどの位置にある。  原電が浦底断層を活断層と認めたのは08年。揺れの想定を引き上げ、活断層が動いても安全性は保たれるとして、東日本大震災の直後まで運転を続けてきた。  しかし、活断層の間近で起こる現象は予測が難しく、特に不確実性が大きい。  活断層間近の地震観測記録は限られている。熊本地震では従来の計算法で再現できない揺れが生じるなど、地震のたびに知識が塗り替えられてきた。  こうした「震源極近傍」と呼ばれる間近の揺れの予測手法は、なお研究課題だ。規制委の審査でも特別に考慮することになっていて、敦賀原発は当然、その対象になる。  地下の断層の動きも複雑だ。地図に引かれた1本の線だけが動くとは限らず、ある程度の幅の範囲にずれが現れることもある。原発敷地内に明らかな活断層があるなら、一緒にほかの断層も動かないか、なおさら慎重に検討しなければならない。  敦賀2号機の審査で規制委は、浦底断層から枝分かれする位置関係にある「K断層」が新しい時代に動いたことを否定できないとした。これが2号機直下の断層までつながる可能性も、否定できないと判断した。  地震は予知できない。この状況でなお、活断層間近の原発を動かそうとするのは、運転している間に活断層が動かないことに賭けるのと同じようなものではないか。 ■原電の態度、無理を重ねているように  「賭け」に失敗したのが、13年前の東京電力だった。敷地の高さを上回る大津波の予測を複数得ていたのに、「信頼性がない」として、何の対策も取らないまま福島第一原発を動かし続け、東日本大震災を迎えた。  このとき、原電が運営する東海第二原発(茨城県)は、直前に完成した津波対策が功を奏し、最悪の事態を免れた。  東電旧経営陣の刑事裁判では、津波対策を保留にした東電の方針について、原電の担当者が「なんでこんな判断をするんだ」と疑問視、原電独自で追加対策に着手していたことも明らかになった。  自然現象の不確実さを踏まえ、念には念を入れて手を打っておく。対処が不可能なら運転を止めておく。どちらも福島第一原発事故の甚大な被害と引き換えに、日本社会が学んだ大きな教訓といえる。東電とは対照的に対策を手がけていた原電も、身をもって実感したはずだ。  しかし、敦賀原発をめぐる原電の態度は、無理を重ねて、ギリギリの線を攻めようとしているように見える。規制委も、原電の調査手法について「安全側の判断が行われているとはいえない」と指摘した。  敦賀への立地が計画された原発の黎明(れいめい)期は、今に比べれば地震や活断層の知見も乏しかった。とはいえ、原電が間近に活断層があると認めてから、もう16年が過ぎている。直下の断層をめぐる規制委の判断も、有識者会合を含めてこれで3度目だ。  さらに調査を重ねたところで、判断を覆すのは容易でない。いつまで、この議論を続けるつもりなのか。  経営陣はリスクを直視し、賢明な判断を下すべきだ。

ギリギリを攻める原電の「賭け」、安全第一と相いれず リスク直視を

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もんじゅ敷地直下に「推定活断層」 国土地理院が新たな地図を公表

 廃炉になった高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の敷地内に、活断層が通っている可能性を示す地図を国土交通省国土地理院が29日、公表した。活断層の専門家が昨年、学会で可能性を指摘していたが、ほかの専門家によっても認められた形だ。現時点では推定で確実ではないものの、敷地では試験研究炉の新設も計画されており、詳細な調査を迫られる可能性がある。  国土地理院がこの日公表したのは、全国8カ所の活断層図で、地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/)からも見ることができる。このうち福井県南部の「今庄」で、もんじゅの敷地を通る「推定活断層」が記された。この区域の活断層図の公表は初めてで、日本原子力発電敦賀原発の敷地内を通る活断層、浦底断層なども掲載された。  推定活断層は「地形的な特徴により、活断層の存在が推定されるが、現時点では明確に特定できないもの」とされる。もんじゅ付近で認定されたのは、北東―南西方向にもんじゅの敷地を横切る長さ約1キロで、位置は「やや不明確」として破線で示された。  もんじゅの直下を活断層が通っている可能性は昨年、中田高・広島大名誉教授らが、学会発表で指摘していた。今回は中田氏を含む5人の専門家が判定にかかわった。  活断層図の解説書によると、付近には断層の横ずれで生じる谷の屈曲があるほか、断層活動で南東側が隆起してできた可能性がある崖が確認された。ただ、確実な証拠は確認できないため「推定」扱いにしたという。 もんじゅの敷地や周辺で活断層ではないとされてきた断層との関係は「現時点では不明」で、付近の西側を通る活断層、白木(しらき)―丹生(にゅう)断層との関係も不明としている。  もんじゅの直下には、同じ向きの断層があることが知られている。もんじゅを運営してきた日本原子力研究開発機構は活断層でないと主張、原子力規制委員会の有識者会合も追認した経緯がある。もんじゅは2016年に廃炉が決定。核燃料は原子炉から取り出され、敷地内の貯蔵プールに保管されている。  原子力機構は今回の発表について、これまでも安全性を確認してきていることなどから「もんじゅの廃止措置等の作業に影響を与えるものではない」としている。新たな試験研究炉をめぐっては現在、地質調査が進行中で、今後の建設場所選びや規制委の審査で対応を求められる可能性がある。

もんじゅ敷地直下に「推定活断層」 国土地理院が新たな地図を公表
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