第3回3世代に連鎖した戦争トラウマ 苦しんだ学者が問う過去へのまなざし
編集委員・大久保真紀
包丁がクルクル回りながら自分の方に転がってくる。それを上の方から、ひとごとのように見ている自分がいる――。
文化人類学者で大阪大学教授の北村毅さん(49)の心象風景だ。
自分の身体から意識だけが抜け出して、離れた場所から自分を見ている感覚。それは、精神的なダメージを避けようと、心の防衛反応として自分を切り離す「解離」という状態で、虐待を受けた子どもに起こることがある。
父は母を日常的に殴った。気に入らないことがあると、「女のくせに」と手を上げた。
暴力は自分にも向いた。だが、小中学生のころのことはあまり思い出せない。それでも、理不尽に怒る父が恐怖の対象だったことは間違いない。
【連載】戦争トラウマ 連鎖する心の傷
悪夢、酒浸り、家族への暴力――。過酷な戦争体験からトラウマを抱え、後遺症に悩む旧日本兵たちの存在は置き去りにされてきました。ようやく語れるようになった子や孫の証言から、連鎖する心の傷の問題を考えます。
問答無用の暴力におびえた子ども時代
父は「めんこい」といって気…
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