鈴木Pが語る「君たちはどう生きるか」制約なしの宮崎駿見せたかった

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聞き手・構成 太田啓之

 宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」について賛否両論が渦巻く中、今月1日、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが朝日カルチャーセンター新宿教室に登場し、映画の封切り後初めて、作品について公の場で語りました。その内容を前後編に分けて紹介します。宮崎監督と鈴木さんがこの作品で目指したものは何か。「わけが分からない物語」という声を鈴木さんがどう考えているのか。この作品の本当の「見どころ」とは何か――。映画を見た人、気になっている人、そしてジブリファンであれば決して見逃せない「本音の言葉」が満載です。

(聞き手・構成 太田啓之

「SNSの反響はまったく見ていません」

 ※この記事は映画「君たちはどう生きるか」の内容に少しだけ触れています。

 ――「君たちはどう生きるか」はSNSでも「絶賛」と「否定」の真っ二つに割れています。鈴木さん自身は反響をどう受け止めていますか。

 「実は(SNSは)まったく見ていないんですよ。そういうのを見たら自分が悩んじゃうし、惑わされるから。僕が知っている方からは直接ご連絡をいただけるんですが、そういう方って『つまらなかった』とはなかなか言いませんよね。いいことばっかり聞いていて幸せな気分だったのに、きょうは地獄へ突き落とされるのかも(笑)」

 ――「宣伝なし」を決断したのはいつごろですか。

 「6年前ですね。映画を作り始めた直後、岩波書店の『図書』という雑誌の巻頭に原稿を頼まれた時、『実はもう一本、宮崎駿監督の映画を作ることになった。今までと同じことをやっても仕方が無い。そこで新しく二つのことを考えた。一つが、さまざまな出資者を募る製作委員会方式をやめること。もう一つが大宣伝をやらないこと』という趣旨のことを書いたんです。公に言っておくと、守らなきゃいけない。自分への戒めもあってそうしました」

 「一本の映画を公開する際の宣伝がすごいじゃないですか。僕自身もそういうことをやってきたので人のことは言えませんが、それに対する疑念がどこかにありました。自分が子どもの頃には、映画を見る時には、『今度東映でこういう映画をやる』っていったら、タイトルだけで見に行きましたね。誰が出るかということすら知らなくて、まっさらな状態で見ていた。行きすぎた宣伝をセーブして、一度その状態に戻したらどうなるんだろう。そう考えました」

 ――宮崎駿監督の映画だからできること、とも思えます。

 「たぶん、そうでしょうね。それ自体が一種の予告ですから。だけど、これが色々な映画で宣伝というものを考える一つのきっかけになれば、とは思いましたね」

考えさせるためにつくったわけじゃない

 ――宮崎さん自身は、宣伝しないことについてどんな意見だったのですか。

 「実は、これまでの作品で宣伝の多さに辟易(へきえき)していたのは宮さん自身です。だったら一度、宣伝のない状態にしてみましょう、と。当然彼は喜んでくれるだろうと思っていたけれど、実際に宣伝をやらないとなったら、誰よりも気にし始めた。僕の前では『鈴木さんの丁半ばくちに俺はかける』とかっこうをつけていたけれど、僕のいないところでは『本当にやっていないんだよ』とすごく心配していたみたいです(笑)。だけど映画を実際に封切ったら、宣伝なしでも色々な人が見に来てくれた。宮さんはそのことを本当に喜んでいました」

 ――正直、最初に作品を見た時には「わけがわからない」とも感じました。

記事の後半では「製作費を回収できない映画を作りたかった」という驚きの言葉や、その真意が語られます

 「そうですか? じゃあ、ちょっとおもしろい話をしますね。僕の家、日曜日にはけっこう色々な人たちが集まるんですが、封切り直後の時には若い人たちが来て『もう一回見なくては』『見直して内容をちゃんと正確に理解したい』と話していた。そこにいた11歳になる僕の孫が『え、なんでもう一回みたいの?』と言い出したんです。彼はその前日に映画を見ていたのですが、内容を全部覚えていて、だーっと一気に説明できるんですよ。もう一人、ある女の子も、セリフや絵の構図まで覚えていた。それが子どもですよね。子どもたちは感想の言い方もすばらしいんですよ。『おもしろかった!』と。だけど、今のところ『おもしろかった!』と言ってくれた大人はいなくて、『考えさせられました』という人が多い。正直に言うと、考えさせるためにつくっているわけじゃないんですが……」

 ――僕はこれまでに3回見た…

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