第1回名前を取り戻す闘いの始まり ビジュアル系バンドは法廷に向かった

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 「FEST VAINQUEUR(フェスト ヴァンクール)事件」――。近年出た知的財産法の解説書にこんな名前の裁判が紹介されている。事件名になったのはビジュアル系ロックバンド。所属事務所からの独立を機に、長年使ってきたバンド名を名乗れなくなった。彼らが法律を武器に名前を取り戻すまでのストーリーを追った。

発端は契約解除

 2019年4月、メンバー4人は、バンドとして約9年間所属した事務所に、専属契約の解除を求めた。

 後に裁判所で言い渡された判決によると、ほどなくして、メンバーの1人は、代表の男性にこう言われたという。

 「やり方がおかしいんじゃないか。全て契約違反に触れる」

 「エゴでくるんだったら俺もエゴでつぶすぞって話」

 「俺が回答するんだったら『つぶす』で終わる」

 長い戦いはここから始まった。

芸能事務所と所属アーティストらが独立や移籍をめぐって対立した裁判で、アーティスト側を保護する内容の司法判断が相次いでいます。第1~3回では、ビジュアル系バンドが起こした裁判をバンド側の視点から追い、元事務所側の受け止めや詳しい主張は第4回で紹介します。第5回はその他の裁判例、第6回は芸能専門弁護士の見方を紹介します。

2010年結成のビジュアル系バンド

 フェスト ヴァンクールは、10年に大阪で結成した。現在は、リーダーでベースのHIRO(ヒロ)、ボーカルのHAL(ハル)、ギターのGAKU(ガク)、I’LL(アイル)の4人で活動する。

 ルーツは「X JAPAN」や「LUNA SEA」に代表される1980~90年代のビジュアル系ロック(V系ロック)だ。ステージでは、あでやかな衣装とメイクをまとう。

 4人は全員がソングライター。洋楽のヘビーメタルや日本のポップスにも影響を受け、持ち曲は130曲以上に上る。

 強みにしてきたのはライブパフォーマンスだ。会場には熱烈なファンが列をなし、曲に合わせてヘッドバンギングなどの「振り」で一体になる。

 ダークな雰囲気を演出するバンドも多いVロック界において、ポップスに根ざした明るい曲調も多い。時にはサンバのリズムまで採り入れ、曲間は関西弁のトークで笑いを誘う。

 ドイツ語とフランス語を組み合わせ、「勝利者の宴」との意味が込められたバンド名は、そんなポジティブ路線の象徴だ。

「事務所と契約」にメリット

 メンバーによると、事務所の…

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