AIが勝手に作品学習、「なりすまし被害」も 著作権問題への対応は

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篠健一郎

 生成AIによる権利侵害を懸念する声がクリエーターからあがっています。政府の知的財産戦略本部は6月、AIと著作権について整理すべき論点を示しました。

 急速な技術発展で生じている法的な問題にどう対応すべきなのか。著作権法に詳しく、文化庁著作権課での勤務経験もある池村聡弁護士に聞きました。

権利者への利益還元「運用面に難しさ」

 ――AIは創作の機会を広げる一方、著作権侵害のリスクが指摘されます。法的にはどう扱われますか。

 AIと著作権についての議論は、他人の著作物をAIの開発・学習に使って良いかという「開発・学習」と、AIを利用して作品を生成することや、その作品を利用することが既存の著作物の著作権侵害に当たるかという「生成・利用」の二つの段階があり、段階ごとに分けて考える必要があります。

 「開発・学習」について、日本の著作権法では、著作権者に不利益を与えない範囲であれば、第三者の著作物を情報解析を目的として収集したり、分析したりすることを例外として認めています。ただ、どんな場合に「不利益」に該当するのかは、個別に判断されます。

 ――AIに特定の作者の作品を学ばせて似たような作品を生み出す「なりすまし被害」も起きていますが、今の日本の著作権法上、問題はないのでしょうか。

 AIに学習させる際は、非常に多くの作品を学習します。日本の著作権法は、著作物の学習に対して寛容であると言われますが、だからといってChatGPTのような生成AIが日本で開発されたわけではありませんでした。その意味で日本の寛容さが現状、AI開発には活用されていない、という見方もできます。

 仮に法律改正をして開発・学習に対して規制を強化するのであれば、各国で足並みをそろえてやらなければ、実効性を伴わないでしょう。また、特定の作者の作品のみを学習することは、その作品の著作権者にとって「不利益」にあたるという解釈もあり得ます。

 ――AIの開発・学習された作品の権利者に、利益を還元するというアイデアもあります。

 開発・学習に利用された無数の著作物の権利者一人一人にお金を実際に支払うことができるのかという、運用面の難しさがあるでしょう。仮にそれができたとしても、一人に支払われる金額は微々たるものになってしまうのではないかと思います。

「表現」は保護、「アイデア」は保護されず

 ――クリエーターの側からは、作品が勝手に学習され、似た作品が生み出されることは受け入れがたいとの声があります。

 そのような相談も実際に受けており、クリエーターの怒りや不安はよくわかります。

 他方で、著作権法が著作物として保護するのは具体的な「表現」であり、表現それ自体ではない作風や画風などの「アイデア」は保護されません。そのため抽象的な作風や画風が似ているだけでは著作権侵害にはあたらない、つまり作風や画風は誰でも自由に利用できるということになるわけですが、そのこととの関係をどう考えるべきかという非常に悩ましい問題があります。

 ――「表現」と「アイデア」は、どのように違うのですか。

 例えば、絵画で言えば、印象…

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