突然向けられた行政のカメラ 手袋かぶせた男性に司法が下した判断は
支柱に取り付けられた防犯カメラ。ある日、その向きが90度回転し、自分たちの拠点をとらえるようになっていた。「防犯カメラじゃない。監視カメラだ!」。憤った人たちの抵抗が始まった。
日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区のあいりん地区(通称・釜ケ崎)。稲垣浩さん(79)は、労働者らを支援する団体「釜ケ崎地域合同労働組合」の執行委員長として、毎日2回の炊き出しなどの活動を行っている。
2019年4月、地区のシンボル的な建物で、労働者が住居や仕事を求めて集まる「あいりん総合センター」が耐震性の問題から閉鎖された。
稲垣さんらはセンター外の敷地に「小屋」を設け、周辺を居場所とする労働者の支援や閉鎖への反対活動をしていた。
問題の防犯カメラは、道路を挟んで向かい合った敷地に19年4月に設置された。センター機能の一つだった職業あっせんを担い、大阪府が補助する公益財団法人「西成労働福祉センター」の移転先で、カメラは当初、駐車場が映るように「南向き」になっていた。
しかし、大阪府と大阪労働局がカメラを借用して、共同で管理することになった後の同年5月30日、「東向き」に変わった。
「露骨やな」。稲垣さんは憤った。カメラの先には、稲垣さんらの小屋があり、路上生活者や支援者が出入りしている。
カメラの向きの変更について、府を含めてどこからも事前説明はなかった。「ずっと撮られているのは気持ち悪い。プライバシーの侵害や」
翌日、対抗策を考えた。カメラを覆い隠すため、炊き出しの時に食器洗いに使っていた緑色のゴム手袋をかぶせることにした。
カメラの高さは約4.5メートル。稲垣さんはぐらつく脚立を支え、仲間がかぶせた。「器物損壊と言われないように、カメラを壊したり、向きを変えたりはしなかった」
ところが4日後の6月4日、ゴム手袋は外された。府が、府警西成署に相談していた。稲垣さんらは次に、近くに落ちていたスーパーのポリ袋を使ったが、翌日にまた外された。
その約5カ月後、自宅に警察がやってきた。稲垣さんらは威力業務妨害の疑いで逮捕された。
警察が現場を調べていたとい…
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら
- 【視点】
「釜」で暮らす日雇い労働者や路上生活者、その支援者に対し、大阪の行政・司法当局が長年にわたって抱え続けている予断と偏見が浮き彫りになった高裁判決(確定)と記事。
…続きを読む