「人権小国」日本を問い直す視座 意図的に作り出される無知とは

論壇時評 政治学者・宇野重規

 「現代思想」で「無知学(アグノトロジー)」という興味深い特集が組まれている。これまでの学問が、「わたしたちは何を知っているか」を問題にしたとすれば、「わたしたちは何を知らないのか」を問うのが無知学である。一口に無知と言っても、単に知識が欠如している場合、その知識の社会的な優先順位が低い場合、さらに無知が意図的に作り出された場合があるという(〈1〉)。

 あげられるのは、例えばタバコの影響や気候変動の問題である。特集では科学技術史の隠岐さや香が、無意識のうちに男性ばかりを対象として調査や研究が行われることで、セックスやジェンダーに関する無知が作り出される危険性を指摘している(〈2〉)。機密情報の範囲が拡大するなか、政府によって作られる無知についても、そのこと自体を知らない人が増えていると無知学の提唱者の一人プロクターは警告する(〈3〉)。

雑誌やネットで発表される論考を紹介しながら時事問題を論じる「論壇時評」。今月のキーワードは「無知」です。月刊「現代思想」6月号の特集「無知学/アグノトロジーとは何か」を手がかりに、後半ではLGBT理解増進法や改正入管難民法をめぐる議論を考えます。

 この学問を応用することで…

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2023年6月29日10時57分 投稿
    【視点】

    記事を読んで思い出したのが、今月インドで開催されたG20サミットの公式エンゲージメントグループのひとつ、「Women20(W20)」の会議の一場面でした。会議にはロシア代表も出席していましたが、会議最終にロシア代表からスカラシップが発表され

    …続きを読む