JR四国の「存廃論議」提案に戸惑いと反発 4知事が6日に意見交換

福家司 多知川節子 杉田基
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 JR四国の西牧世博社長が、赤字ローカル路線の存廃について自治体との議論を望む具体的な線区を挙げたことを受け、地元から戸惑いと反発の声が相次いでいる。4県知事は6日にある四国知事会議で意見交換する予定だが、いずれも「廃止ありき」の議論になることを警戒しており、今後の見通しは霧の中だ。

 西牧社長は4月25日の会見で、利用者の少ない路線について、存廃を含めた議論を始めたいと4県に申し入れた、と明らかにした。候補は予讃線海回り区間の向井原―伊予大洲間(愛媛県)▽予土線の全区間(愛媛、高知両県)▽牟岐線阿南―牟岐間、牟岐―阿波海南間(徳島県)の3路線4線区で、西牧社長は「まず3路線のどれかから(議論を)始めたい」と発言。同社が具体的な線区を挙げたのは初めてで波紋が広がった。

 「危惧している」と同27日の定例会見で警戒感を示したのは、予讃線と予土線の2路線を抱える愛媛県の中村時広知事だ。こうした提案が出る背景には、1987年の国鉄分割民営化や人口減少東京一極集中などの社会変化があると持論を述べ、「本当にこの分割のままでいいのか、再合併の議論も必要ではないか。一番大きな根本の議論がすっ飛ばされている」と語った。

 予土線の約3分の2が走る高知県の浜田省司知事は定例会見で「廃止の結論ありきの議論なら、協議の場につきようがない」と予防線を張った。牟岐線が走る徳島県の後藤田正純知事は定例会見で「県民の立場になって闘っていく」と表明。唯一候補路線のない香川県の池田豊人知事も定例会見で「鉄道は地域の足で、廃止ありきは適切ではない」と3知事の立場に同調した。

 中村、浜田両知事も、利用促進のための議論には前向き姿勢だ。5月12日の両県の交流会議で、予土線沿線の愛媛県側3市町、高知県側2市町でそれぞれつくる利用促進対策協議会を一本化することで調整していると明らかにした。

 西牧社長の発言の背景には、4月に成立した改正地域公共交通活性化再生法で、赤字路線をめぐって路線存続やバスへの転換を議論する「再構築協議会」を事業者や自治体の要請を受けて国が設置できると盛り込まれたことがある。

 西牧社長は5月30日の定例会見で「利用促進については従前から行っており、これからやるべきは存廃議論だ」との認識を示した上で、「存廃議論の協議は、まず法定協議会を立ち上げ、議論が進まなければ(改正法に基づく)再構築協議会を開くことになる」との道筋を示した。(福家司、多知川節子、杉田基)

愛媛県の中村時広知事(4月27日の定例会見)

 すぐに存廃やバス転換といった議論になってしまいかねないので、すごく危惧している。元々鉄道というのは公共インフラで、国鉄時代に全国統一で行われていた。(その後、国策として国鉄が分割民営化され)弱いところ強いところの明暗がくっきり出てしまった。分割してしまった状況の中で、「あなたたちで考えなさい」って、いくらなんでも乱暴すぎるのではないか。(そこを国に議論してもらった上で)現在の課題や利用促進といったことは全面協力していきたい。

高知県の浜田省司知事(4月27日の定例会見)

 JR四国側から話し合いの申し出が具体的にあれば、それを踏まえて真摯(しんし)に受け止め、検討する必要がある。(ただし)予土線の廃止という結論ありきの議論をする、それしかないということなら、協議の場にはつきようがない。予土線の存続を求めたいというのがわれわれの議論のスタートだ。都道府県間をまたがる交通手段の確保は、国が一義的な行政責任を負うべき分野だ。国の法律の建前から、地域交通の確保に関しては国は大きな責任を持ってほしい。

徳島県の後藤田正純知事(6月1日の定例会見)

 在来線維持のためにも新幹線で利益を増やす必要がある。ほっとくと赤字がどんどん多くなる。このままだとJR四国が大変なことになる。(存廃議論など)交通弱者に対するJR四国の対応については、毅然(きぜん)として県民の立場に立って闘っていくつもりだ。鉄道事業法には県民のナショナルサービスを守るという記載もある。(一方で)今までJR四国と4県知事の対話がなかった。もっと情報交換を密にしていきたい。こちらからも説明を求めたい。

香川県の池田豊人知事(5月22日の定例会見)

 公共交通機関は、公共と名前がついている通り、民間事業者だけに任せておける問題でない。存廃が危惧される路線について、自治体が入って協議するのはあるべき方向性ではないか。(ただし)鉄道は地域の足であり、廃止ありきということは適切ではない。むしろ維持するためにどうしたらいいかの視点に立ち、鉄道事業者と自治体が考えていくのが基本にあるべきだ。鉄道は定住に不可欠なものという大きい意味では国の責任でもあり、国も必要なサポートはする立場にある。

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