万葉集にも詠まれ、伝統担う「ムラサキ」が危機 次世代への保全訴え
万葉集にも詠まれ、根っこの成分が古くから染料や薬の原料として使われてきた植物「ムラサキ」。だが、明治時代以降の乱獲や開発による生育環境の変化、病害虫の流行もあって、今では野生で見ることは難しく、絶滅のおそれがある。
海外種との交雑も懸念されており、京都大とお茶の水女子大の研究チームは「深刻な社会問題といえる。日本の伝統文化を担っているムラサキ保全の重要性を多くの方に知ってほしい」と訴える。
聖徳太子の時代から利用 冠位の最上位示す色
日本と韓国、中国に自生するムラサキが国内で利用されるようになったのは、遣隋使を派遣した聖徳太子の飛鳥時代、約1400年前にさかのぼる。
中国から仏教とともに薬学・医学の知識が浸透したとされ、根っこのエキスはしもやけややけどの塗り薬、痔(じ)の薬として今も使われている。
「ムラサキ」の文字通り、根っこの表面に含まれるシコニンという赤色の色素は、ツバキの灰(アルミニウムイオン)とまぜると、天然の紫色染料の原料となる。
古代、紫色は身分の高い人しか使うことができず、「冠位十二階」で序列がもっとも上の「大徳」は、ムラサキで染めた濃紫の冠が使われていた。奈良時代には、貴重なムラサキの根っこは「税」としても納められるようになった。額田王らによって万葉集にも多く詠まれている。
ムラサキは白色のかれんな花を咲かせる多年草。種子で増えるが、発芽しにくく、アブラムシが媒介するウイルスに弱いなど、生育が難しい。
絶滅の脅威に復活プロジェクトも 研究チームがゲノム解析
さらにやっかいなのが、明治時代以降に持ち込まれた欧州原産の外来種、セイヨウムラサキの存在だ。
花びらが少し黄色がかってい…
- 【視点】
この記事を読んで、農芸化学者で俳人の飴山實先生の<紫草の花の白さを風のなか>を思い出した。私が初めてムラサキ(紫草)を見たのは、奈良市にある春日大社神苑・萬葉植物園。万葉集で多くの歌人に詠まれた小さくて白い花を咲かせるムラサキの根(紫根)は
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